越境ECで世界中を便利に・幸せにしたい、「BENLY」の挑戦
アメリカ留学、大手企業を経て起業へ。そしてソフトバンクアカデミアとの出会い
山岸 - 今回は、越境ECを多方面から強力にサポートする、「BENLY」の中瀬社長にお話を伺っていきます。まずは起業するまでの経緯をお聞かせいただけますか。
中瀬 - はい。職歴としては、最初は「富士通」で金融システムのSEをやっていました。その後「デロイト トーマツ」に転職して、戦略コンサルティングに携わりました。その後中小企業向け戦略コンサルティング会社を設立。また海外ブランド化粧品の輸入代行の会社も立ち上げました。自分のスキルセットを活かす事業とマネタイズがし易い事業をしてキャッシュを貯めていきたい、という想いでした。その際に縁あって、「ソフトバンクグループ」の企業内学校である「ソフトバンクアカデミア」に外部一期生として入りまして。
山岸 - 「ソフトバンクグループ」の創業者・孫正義氏が作った後継者育成プログラムのようなものですよね。
中瀬 - そうです。そこで孫さんの「世界を変えて行くんだ」という熱い思いに触れ、私も昔から「自分が心からやりたい事で世界を変えたい」という気持ちがあったので、刺激になりましたね。その流れで3社目となる「BENLY」を起業しました。
山岸 - では、以前からいつか起業したいという考えはおありだったんですね。
中瀬 - 実は起業する以前にも、他社でECサイトの開発をお手伝いしたりすることはあったんです。また大学時代にインターネット創世記のアメリカに留学したことも、かなり影響しましたね。カリフォルニアの大学に留学していたのですが、異文化を肌で感じることができましたし、個人的に並行輸入もしていました。
山岸 - 実は私も1999年にアメリカに留学して10年くらいアメリカで暮らしていたのですけど……、中瀬さんも同じ頃にアメリカにいたのですね。
中瀬 - 昭和49年生まれですよ。
山岸 - 私と同い歳じゃないですか! 同い歳で同じような境遇の人と出合えるとは、嬉しいです(笑)。ちなみに私は留学していた当時、お小遣い稼ぎにアメリカの「eBay」で日本のゲーム機を売っていました。現地でどんなゲーム機が売れるかリサーチして、日本の友達に中古ショップを回って探してもらって。「こんなに簡単に売れるの」と意外でした。
中瀬 - 私は帰国してから個人輸入代行をやっていました。現地の知人にお願いして買ってもらった商品を日本向けに売ったりしていました。インターナショナルシッピングをしてくれないところはドメスティックで対応しなければならないので。
山岸 - どんな商品を扱っていたんですか?
中瀬 - マニアックなものが多くて、例えば魚群探知機とか。
山岸 - 魚群探知機ってけっこう高いですよね。
中瀬 - 日本では50万円~60万円もするものが、アメリカで買うと1400ドル~1500ドルくらいで買えちゃう。当時そのメーカーは日本には卸していなかったので、買いたければ並行輸入するしかなく、ボートを持っている釣り好きな人たちが注文してくれたものを私が買ってあげるというような流れで。
山岸 - その頃からもう、日本と海外でビジネスをしていたんですね。
越境ECのバックヤード全般に対応。オウンドメディア「LiiiFE」も好調
山岸 - 御社は越境ECに関する幅広い事業を展開されていますよね。
中瀬 - 越境ECをやるための配送、倉庫、カスタマーサポート、つまりバックヤード全般に対応しています。さらに、海外向けのECサイト制作にも力を入れています。国内もやっていますが、やはり「自社ドメインで海外向け越境ECサイトを作りたい」とか、「中国向けに『T-mall』(天猫)に出店して商品を売りたい」というところの立てつけを、ウェブサイト制作という切り口でやらせてもらっています。最近ではShopifyの制作にも力を入れています。
山岸 - マーケティング以外すべてに対応していると言っても過言ではないですね。
中瀬 - そうなりますね。そしてもう1つ、世界各国のライターが外国人の視点で日本のモノ・コトを紹介する英語オウンドメディア「LiiiFE」(ライフ)を、昨年10月にローンチしました。
山岸 - 記事を書いているのは、日本人ではないんですね。
中瀬 - はい。外国人が興味を持つものと日本人が良いと思ってプッシュするものって、ギャップがあるじゃないですか。だからこそ「ここがヘンだよ日本人」なんていうテレビ番組がウケたりしているわけですが、日本の“変なところ”を記事で紹介したとしても、外国人にしてみれば「うん、変だよね」と納得するだけで終わってしまいます。それより、外国人が「いいな」と感じる文化やサービスを外国人自らの視点で紹介し、本当に感性にひっかかる商品を取り上げた方が、刺さりやすいと思っています。
山岸 - そうですよね。
中瀬 - でも「LiiiFE」はまだマネタイズしておらず、メディアの価値を上げていこうという段階でして。
山岸 - なるほど。それは必要ですよね!
中瀬 - 最近では閲覧数ものび始めているので、この5月からサイト内にBUYボタンを設置して、記事に関連した商品を買えるようになりました。例えば「たこ焼きがおいしいよ」という記事を読んで、「私もたこ焼きを作りたい! でも材料は日本食材を扱うスーパーで買えるけど、たこ焼きを焼くプレートは売ってない」となったときに、ボタンをポチっとすれば買えると。
山岸 - なるほど。いいですね。
“爆買い”から3年、再燃し始めた越境EC
山岸 - 3年前と今とで、日本企業の越境ECについての感覚は変化してきていますか?
中瀬 - 3年前はちょうど爆買いの時期で、“越境EC=中国”みたいな形になっていました。
山岸 - かなり盛り上がって海外に出たものの、その後「難しかった」と言って撤退した大企業さんがいたり。
中瀬 - それで鎮火してしまった感じで。でも越境ECはもちろん中国向けだけではなく、北米、欧米、ASEAN地域など色々あり、売る商材によってどの地域に刺さるのかはそれぞれ違う。つまり“越境EC”という言葉を総称として、色んな国にアプローチするものだと考えています。
山岸 - その通りだと思います。
中瀬 - それでも「日本の商品は売れるはずだ」と、例えば中国向けに「T-mall」(Tモール)や「京東全球講」(ジンドン)、「taobao」(タオバオ)などに出店して、そこそこ売れたけれど利益率は低く、売上が上がっても儲からないというケースも。かつ、売れるのは基本的に名の売れた商品だけで。
山岸 - ブランド力がある商品ですよね。
中瀬 - そう。海外に良いものを出したいという思いはあるけれど、停滞している……それが1年前くらいの状況でした。でも去年の夏頃からまた盛り上がってきています。これは一般貿易のハードルが下がり始めているのが1つの要因でしょうね。例えば配送ですが、「FedEx」(フェデックス)や「DHL」(ディーエイチエル)といった国際宅配便業者を使う場合は、関税がかかる対象の物品・金額だったときに100%関税がかかりますが、「日本郵便」で国際郵便を送ると関税が抜き打ちでかかるため、高い確率でスルーできたりします。ただしひっかかってしまったのに関税を支払わないでいると、業務停止命令が出てしまったりするので要注意ですが(笑)。
山岸 - あれはもう、完全に運ですよね(笑)。
中瀬 - それから中国ではここ最近、政府が越境ECに関するさまざまなルール作りを進めているので、日本企業もまた本腰を入れ始めているようです。具体例を挙げると、売り手側が関税を払う新しい税制度ができたり。これは、例えば1万円の商品で売る側が10%の関税をのせたとして、消費者が支払った1万1000円のうち1000円を売る側が政府に支払うという仕組みですね。
山岸 - うんうん。
中瀬 - 最初は自社の越境ECサイトで商品を売ってみて、売れ始めたら一般貿易で中国の保税に入る、というのが良いかもしれません。
山岸 - 自社で作った越境ECサイトなら、そうした工夫が色々とできますよね。
ASEANでは一部の高価な趣味嗜好品がよく売れている
山岸 - 越境ECの対象国としてまだまだ中国向けは強いと思いますが、東南アジアや欧米はいかがでしょうか。
中瀬 - 欧米は基本的に先進国なので所得が高く、ECで買い慣れている人が多いようですね。ASEANに関しては、データを調べてみると、趣味趣向の高いものが売れる傾向があるようです。例えば、オートバイに乗っている人が、日本で買っても3万円とか5万円とかするARAIやSHOEIのヘルメットを買うとか。これが、マレーシアやインドネシアで買うと日本の倍くらいの価格なんですよ。「だったら日本のECサイトで直接買おう」というパターンがあったりします。
山岸 - それはありますよね。
中瀬 - ほかにも、実は一眼カメラの中古レンズがびっくりするくらい売れるんです。
山岸 - 日本製品のクオリティが高いからでしょうか。
中瀬 - 一眼カメラはさまざまなレンズを付け換えて楽しめるので、カメラ好きの人たちは遠くを撮りたい、近くを撮りたいというニーズに合わせて複数のレンズを買っているそうなんです。でもレンズは新品で買うととても高額で、中には100万円以上するようなものもある。それで、状態の良いものが多数出回っている日本の中古レンズ市場が人気なんですね。日本人は物を大事に使うので。
山岸 - レンズに限らず、日本は中古品がキレイですよね。これがアメリカなら、例えば中古車でも、価格は高いのにボロボロだったりしますから。
利用者の負担になるサービスは、極力なくすべき
山岸 - 現状の越境ECについて、何か思うところはありますか。
中瀬 - まず、メーカーさんなど自社のプロダクトを持っている人たちと、並行輸入で商品を仕入れて売ろうとしている人たちがいると思うのですが、後者は転売ビジネス、つまり“背取り”と同じなんですね。また弊社は配送サービスの1つとして転送サービスをやっていますけれど、どちらもいずれはなくなるべきだと思っています。
山岸 - それはなぜですか?
中瀬 - 転売はいわゆる購入代行サービスと同様なわけですが、購入代行も転送も、結局は利用者の皆さんが費用を負担しているわけなので。
山岸 - 確かに。
中瀬 - ですから、テクノロジーの発達によってインターネットが使いやすくなってきて、物流に関しては現状では“ラストワンマイル”(最終拠点からエンドユーザーへの物流サービス)はお金がかかっても仕方がないとして、それ以外のところはもっとコストを圧縮されるべきだと思っているのです。
山岸 - なるほど。ちなみに、「これ売れますか」とか「これどこで売ったらいいですか」というような、答えるのが難しい漠然とした相談もありますよね。そういう時はどう対応されていますか?
中瀬 - 逆に「そもそもどこの国で売りたいんですか」とか、「その商品のコンセプトは何ですか」などと質問を返してしまいますね。それでも事実として出せるのは結局、Googleアナリティクスとかで「こんな検索キーワードがありますよ」というような回答になっちゃいますよね。
山岸 - そうなりますよね。事前に海外で売れると予測しても、実際に売ってみたらダメなことも多いじゃないですか。だからまずはやってみて、うまくいかなくても落ち込まずに「現地の生の反応が得られた」と思うことが大事かなと思っています。
日本の越境ECサイトの売れ筋4ジャンルと、売れる理由
山岸 - これまで色々な越境ECの案件をサポートされてきて、「こんな商品が売れる」という傾向はありますか?
中瀬 - 現状ですと、アパレル、トイレタリー、アニメやサブカル系は反応がいいようです。それから、化粧品やサプリメントなども売れ筋です。アパレルはアジアで多く売れていますね。
山岸 - サイズが合うからでしょうか。
中瀬 - その通りで、アジアの人たちの体型に合っているのでしょう。その商品がメイド・イン・チャイナでも台湾でも、日本企業がきちんとコントロールして作っているという安心感があるようです。オムツなどのトイレタリーは、中国向けが多くなっています。またジャパニーズアニメとコミックは一定の市場が出来上がっており、オールラウンドに売れています。化粧品は基礎化粧品が売れていますね。
山岸 - そうなんですね。では、成功事例を少し具体的にお聞かせいただけますか。
中瀬 - “プチ成功”が“大成功”になった事例の1つが、とあるアニメのグッズですね。作品の海外での認知度はそれなりに高かったものの、商品購入に至るまでの動線がしっかりと作れていなかったところを、いくつかの施策を打ったら爆発的に売れました。先ほどお話ししたカメラの交換レンズは、秋葉原のとある中古品買い取り&販売の会社だったのですが、中古レンズの売上だけで月商3000万円くらいまでいきました。ほかにも、ゼロから立ち上げて月商300万円くらいで推移しているアパレルブランドもあります。
山岸 - やはり成功事例はたくさんあるんですね。実は弊社の関連会社で、「COSMERIA」(コスメリア)という東南アジアに特化した化粧品の口コミサイトがあり、それに付随してECもやっているんですけど、そのFacebookページにはすでに10万人くらいファンがいるんです。
中瀬 - それはスゴイですね。
山岸 - 「COSMERIA」に掲載している日本製化粧品は現地では知られていないものばかりなので、オンラインでイベントをやったり、モニターさんにサンプルを送付したりすることで、売り始める前に使った人が口コミをしてくれるんですね。化粧品メーカーって国内に3000社~4000社ほどあって、大手はそのトップ5くらい。それ以外のメーカーさんがアジアで売っていこうとしたとき、「何百万円も資金は使えない」ということで相談に来られることが多いんです。
中瀬 - そうなんですね。
山岸 - 「COSMERIA」はお客様のECを作るためのサイトではないので、御社のお客様が認知度を高めるために口コミを活用していただくなど、ご協力できるかもしれません。また弊社は創業当初からSEMを専門にやっていまして、昨年からはソーシャルメディアで商品のファンを作ることに特化した事業をも起ち上げました。ですので、今後はその部分でもご一緒できるといいですね。
中瀬 - それはぜひとも!
海外に出たいと思っている中小企業をサポートしていきたい
山岸 - 御社の現在のお客様の傾向や、今後狙って行きたいお客様の層などがあれば、教えていただけますか。
中瀬 - 大企業さんはもちろんですが、これから海外に出たいと思っている中小企業さんのサポートを能動的にやっていきたいと強く思っています。また自治体さんについても、海外のガイドブックに載らないと海外の人は流れて来ないので、世界中に広く認知してもらえるように私たちがアピールしていきたいという思いが強いですね。例えば世界遺産で有名になった場所でも、その地で取れる品質の良い木材であるとか伝統工芸品であるとか、世界遺産以外の魅力がたくさんあるので、それらに日の目を当てていくことが大切だと。
山岸 - 自分も、日本と世界をつなげていこうと色々とやっていますが、本当に大事なことは企業の規模にかかわらず皆が世界で戦えるようにしていくことだと思っています。最近ではインターネットの普及によって翻訳のコストがかからなくなり、ウェブサイト上で世界中に商品を売っていくことができますから、そうしたサービスを最大限に活用してほしいと思います。日本はこれから人口が減っていくばかりですが、インターネットをしている人口は世界中で35億人くらいいるはずなので、パイを奪い合うより海外へ出た方が生き残れるのではないでしょうか。
海外進出で成功するための秘訣は、現地への愛
山岸 - 一言ではなかなか言えないと思いますが、海外進出で成功するための秘訣って何だと思いますか?
中瀬 - そうですね……。皆さんはもちろん、自分の扱っている商品やサービスを愛していらっしゃると思いますが、それと同じくらい海外市場を愛することではないでしょうか。
山岸 - やっぱり、現地のことを好きにならないとダメですよね。
中瀬 - その国や地域によって色んな文化や風習がありますし、私たちが良いと思っているものが現地にも当てはまるとは限らないので、そこを理解しようとするならやっぱり、愛さないといけませんよね。商売のためだけにリサーチをするよりも、「この人たちの課題って何だろう? それを日本のプロダクトやサービスで解決してあげたい」と思うことができなければ、瞬間的にマーケティングで資金を投下してドカンと売れたとしても、それを継続していくことはできないと思うんです。
山岸 - 確かに。それでは最後に、御社の今後のビジョンを教えてください。
中瀬 - 社名の通り、人々を幸せにする便利なサービスを出し続けることが弊社のフィロソフィーなんです。そのためには、越境ECというキーワードすら堅苦しい気がしています。
山岸 - 越境ECというと、ちょっと構えてしまうところはありますよね。
中瀬 - ですから、越境ECという言葉が必要なくなって、国境を感じないくらいシームレスな売買ができたらいいと思いますし、そういう世の中になっていくべきだと思うんです。私たちがその一翼を担えるよう、まずは越境ECで海外の人たちにたくさん日本の商品を届けて、触れていただく。そして逆に日本の人たちにも海外の商品に触れていただくといったことをしながら、世界中の人々の生活が豊かになるようなアプローチを続けていきたいと思います。
山岸 - やはり、日本と世界をつなげたいという同じミッションを持つ人と話すと面白いですね。弊社は得意なデジタルマーケティングで同じように世界を目指していますが、御社を含め、皆で盛り上げていければいいですね。中瀬さん、本日はありがとうございました!