GLOBAL MARKETING INSIGHT

CEO対談
2017.9.11

海外進出は、場所よりも信頼できる人を見つけることが大事。

対談者

株式会社クリエイティブコネクションズ&コモンズ
代表取締役CEO
三宅 一道 様

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フィリピン・ダバオで起業したからこそ見えた、海外進出成功のポイントとは?

ダバオで日英バイリンガル人材による幅広い業務を受託

山岸 - 今回は、フィリピン第3の都市・ダバオで2012年に起業した「株式会社クリエイティブコネクションズ&コモンズ」のCEO、三宅さんにお話を伺っていきます。まずは、御社が提供しているサービスについて教えてください。

三宅 - 弊社では、日本語・英語のバイリンガル人材による翻訳をはじめ、バイリンガル人材による業務アシスタントやカスタマーサポートなどを行っています。
案件サイズ的に大きいのは、日本のゲーム会社の海外ユーザー、特に英語圏のユーザーのカスタマーサポートですね。ユーザーからのメールは、例えば「課金したのにアイテムが届かない」というような、カスタマーサポートだけでは解決できない場合も多くあります。そこで、英語のメールを日本語に翻訳してゲームの開発会社に質問するエスカレーションまで対応しています。また最近では、ゲームのローカライズや、日本のマンガの翻訳などもしています。

山岸 - ジャパニメーションを世界に出しているんですね!

三宅 - はい。またこうした翻訳事業を基軸として、ダバオやフィリピンなどに進出したい日系企業さんのバック系のサポートも行っており、登記から立ち上げまですべて対応しています。

山岸 - ゲームのカスタマーサポートは、1カ月に何件くらいあるのですか?

三宅 - 複数のソーシャルゲームに対応しておりまして、メールの件数は1カ月で合計4,000から5,000くらいですね。オンライン通訳のような感じで。

山岸 - やはり一般的な質問などは、社内でナレッジベースというか、作業を効率化するために検索できるようにしたりしているんですか?

三宅 - はい。ナレッジベースや検索システム的なものは、自社開発して運用しています。また同時にパートナー会社のシステムも利用しており、弊社内では日本語と英語の翻訳が両方必要な部分、バイリンガル人材を使うことに特化しています。一度にたくさんのカスタマーに情報を流さなければならない時は、メールだけでなくチャットで対応したりもしていますね。

起業のきっかけは、教え子たちの現地での就職難

山岸 - フィリピンと言えばマニラのイメージがあるのですが、ダバオで会社を立ち上げることになった経緯を聞かせていただけますか。

三宅 - 実は大学を出てから3~4年間、日本でバンド活動をしていたのですが、バンドが解散することになった時に日本にいる意味が分からなくなってしまって、ワーキングホリデーでカナダかオーストラリアあたりに行こうかと考えていたんです。でもちょうどその頃、妹がダバオでソーシャルワーカーとしてNGOに従事していて、話を聞いてみると、「フィリピンは英語圏で、近いし住みやすいから行ってみたら?」と。私としては「絶対に海外に出る!」ということだけは決めていたので、現地で何か見つかるだろうという甘い考えでダバオに向かいました(笑)。

山岸 - 最初にダバオに渡ったんですね。

三宅 - そうです。バンドではギターを弾いていたのですが、ダバオの大学でギターを使って日本の歌を教えるボランティアのオファーをもらって、日本語教育の現場で現地の学生たちのやる気の高さに打たれたのが日本語教育に携わるきっかけになりました。その後、ダバオ市内に日本語の専課がある大学ができて、そこで2年くらい日本語教育の経験を積み、それ以降も現地の大学で日本語教育に5~6年余り携わりました。大学の日本語教育には合計10年間携わりましたね。やがて日本語教育をまとめる立場になると、7年目から9年目の3年間は日本語センター長として従事しました。また最後の1年間はセンター長職を退き、アドバイザーという立場で日系企業との連携をやりました。次はどうしようかと回りを見回してみると、大学生たちは卒業してもダバオ市内に仕事がまったくないということが分かり、「それなら会社を作って、自分が教えた学生たちを雇おう」ということに。

山岸 - そんな経緯があったのですね。

ダバオには優秀な人材が豊富

山岸 - フィリピンには、ダバオのほかにもマニラやセブといった都市がありますが、ダバオならではのメリットはどんなことでしょうか?

三宅 - 一番感じるのは、人材が豊富なことですね。都市部では優秀な人材がどんどん大手企業に採用されて足りなくなってきていますが、ダバオにはまだ良い人材が大量にいるんです。街自体も安全で住みやすく、キレイなビーチも近く、若者たちはダバオが大好きなのですが、仕事がないので出ていくしかないのです。

山岸 - 本当はダバオで働きたいけれど、仕事がないから出稼ぎをするしかないわけですか。

三宅 - そうなんです。だからすごくレベルの高い人材、大学も出ているけれど仕事がなくてくすぶっているという人がいっぱいいて、例えば総務や人事などで求人募集をすると、1つのポジションに対して数百人の応募があったりします。

山岸 - けっこう来ますね!

三宅 - IT人材なども、弊社はあまり大きな開発をやっていないので数人しかいませんけど、それでも求人を出すとかなりの応募があります。

山岸 -  セブやマニラにはすでにヨーロッパなどの企業が多数進出しているので、人材が意外に集まらないけれど、ダバオはまだポテンシャルがあると。

三宅 - そうですね。コールセンターなどの外資がけっこう入って来ていますが、何しろ日系企業はまだ少ないんです。

ダバオは日系企業の進出が少なく、安全度の高い街

山岸 - ちなみにダバオには今、日系の会社はどれくらいあるのですか?

三宅 - 商工会の話ですと、マニラには日系企業が600社ほど、セブでも150社ほどあるそうですが、ダバオにはまだ20社もないくらい。そしてこの20社も、大手がいくつかあるほかは数人でやっているような小さな会社がほとんどで、IT企業は皆無です。

山岸 - 立ち上げた6年前はほとんどなかったのでは?

三宅 - 全然ありませんでした。そこから弊社がお手伝いして何社か進出しましたが、それ以外は聞いたことがないです。だからチャンスがあるぞと思っているんですけど、日本との直通便がないことも進出が進まない理由のひとつになっているのかもしれません。

山岸 - ちなみにダバオには、戒厳令は……。

三宅 - 出ていますが、もともとフィリピンの中でも安全度は高い街でしたし、戒厳令の関係でダバオ周辺ではセキュリティチェックがすごく厳しくなって、軍が壁を作ったりしているので、安全度はむしろ高まっています。ただしダバオがあるミンダナオ島は北海道くらいの広さがあって、ダバオはちょうど函館のあたりに位置しており、西の方には少し危険な場所もあります。

山岸 - なるほど。

採用面接では、家庭環境を知ることが重要

山岸 - ダバオの人たちは、日本に対してどんなイメージを持っているのでしょうか。

三宅 - 不思議なことに、日本のワーキングマナーを理解している人がとても多いんですよ。「日本の人は時間にすごく厳しいですね」と言われたりして。

例えば採用面接で、少し遅れて来た人に「何時に来たの」と聞くと、「2時3分に着きました。日本は時間にすごく厳しいのは知っています」という返事が返ってくるんです。

山岸 - そうなんですか。では、ダバオの人たちは日本人とは感覚が少し違うと思うのですが、働いてもらう上で気を付けたいところはありますか?

三宅 - 弊社が起業支援をしている中で、進出していただいた会社さんが悩むポイントがいくつかあります。そのひとつが「せっかく雇ったスタッフが長続きしない」というもので、コミュニケーションが上手くいかないというのが原因なんですね。これを解決するには、実は採用面接の時に問題になりそうなことをすべて聞いておく必要があります。

弊社の場合、家族構成はもちろん、それぞれの家族がどんな仕事をしているか、両親は海外で働いているか、世帯収入はいくらかといったところまで聞いていきます。こうした質問をなぜするのかと言うと、これまでに何社も企業支援をしてきた中で、家庭環境に由来した内容が原因で会社を辞めてしまう人が何人もいたためなんです。

山岸 - フィリピンでは、仕事の内容ではなく家庭環境が影響して辞めてしまう人が多いんですか。

三宅 - そうなんです。特に地方都市ではこうした傾向が強いので、もしダバオで起業したいならスタッフの家族とのつながりを見極めておく必要があります。弊社ではこのあたりをどんな項目で質問するかというのも、完全にマニュアル化しています。

山岸 - アメリカではタブー視されているような質問内容ばかりですね。日本でも問題になりそうです(笑)。

三宅 - もちろん「聞いて良いですか?」と了解をとってから聞きますが、ノーという人はほとんどいませんね。

山岸 - 日本では家庭環境を理由に仕事を辞める人はそこまで多くないですね。興味深いです。

三宅 - その人がどんな仕事をしたいのかということはもちろんですが、「ダバオにいたい」という思いも重視するようにしています。フィリピンには出稼ぎ文化があり、給料が良いからという理由でセブやマニラなどに移動するのは当たり前ですから。「ダバオを好きで、ここで仕事をしていきたいと思っていますか?」という質問はけっこう大事ですね。

日本を紹介する情報サイトの運営と、アルメニアでの起業

山岸 - ちょうど最近、「DAVAWATCH」(ダバウォッチ)というwebメディアをリリースされましたよね。これはダバオで唯一の日本を紹介するメディアじゃないですか?

三宅 - はい。セブの「Cebupot」(セブポット)やマニラの「Primer」(プライマー)のように、ダバオの魅力を伝える情報サイトをずっとやりたくて、去年(2016年)の終わりに始めました。
現状ではダバオの観光やレストラン、ニュースといった情報を発信していますが、今後は会社や人物などにもスポットを当てていきたいと考えています。また、現地の会社に開発を発注したり、マッチングしたりすることもできますし。

山岸 - 新しく始めたと言えば、ほかにもアルメニアで会社を始めたそうですが、これはどうして?

三宅 - ダバオで起業した経緯はお話した通りですが、もともとビジネスに関して素人だった私がなぜビジネスを続けられているかというと、ダバオは本当に優秀な人材が豊富なんですよ。最近ではダバオが注目され始めて仕事が入ってきやすい状況になっていますが、ダバオで感じた「ここでうまくやっていけるぞ」という感覚を、アルメニアでも感じたんです。

山岸 - 直感に近いところがあるんでしょうか。

三宅 - アルメニアの場合は、すでにダバオで起業の経験をしていて、その時と同じものが見えたんですね。しかも、“人材力”はアルメニアの方があるかもしれません。

山岸 - 日本でも今、人材が足りなくて海外に活路を見出している現状がありますが、人材は大事ですよね。

起業後の一番の悩みは、現地スタッフのケア

山岸 -  ダバオでこれまで6年間余りビジネスをされてきて、特に難しいと感じていることは何ですか?

三宅 - そうですね……。せっかく起業支援で立ち上げたけれど、1年経たずにダバオから撤退されてしまったということがありまして。これは弊社がオペレーションレベルで入ってサポートしていければ防げたかもしれないと感じています。一番の悩みどころは、フィリピン人のスタッフをどう使ったらいいのかということだと思うんですよね。

山岸 - そうかもしれないですね。

三宅 - 先ほども話したように、フィリピンでの人材採用が初めてだと、面接で何を聞いてよいのか分からない。これは一例で、それ以外にも細かい問題がたくさん出てくるわけです。

例えば、フィリピンでは“ミリエンダ”と言うおやつの文化があって、弊社ではおやつの代わりにお弁当を出したりしています。そうした文化や商習慣の違いなどからくる小さな問題をいくつも乗り越えてノウハウを蓄積しているわけですが、それを起業支援で最初から全部お見せできれば、もっと長くビジネスを続けられたかもしれないと。

山岸 - それはあるかもしれませんね。

三宅 - 登記が終わって採用する人材も決まり、案件終了となってからの事なので、弊社の範疇ではなかったのですが、やはり残念で。一緒にやっていく中で別のコラボレーションが出来たりすることもありますから、そうしたチャンスをつぶしてしまったとも感じています。もう少しおせっかいすれば良かったなと。

山岸 - 良い人材を採用できたら、その後にどう生かすかというところも経験が必要ですもんね。

三宅 - そこまで一緒にやっていければ、進出先としてすごくポテンシャルが高まると思うんです。ダバオは今、インフレが起こっているので、地価やインフラ系にかかるコストが上がってきていて、人件費も高騰しつつあるのですが、それでもまだ日本の1/3から半分くらいのレベルなので、これから進出するにはとても魅力があると思っています。

海外進出するなら、まず信頼できる人を探すべし

山岸 - 海外進出したいけれど、なかなか最初の一歩が踏み出せない……そんな人たちに向けて、アドバイスをお願いします。

三宅 - 海外進出と言うと、最初に進出する場所を選びがちですが、私は場所を選ぶ前に信頼できる人を見つけることが大事だと思っています。現地の人でも日本人でもかまいませんし、ひとりだけでも良いので。やっぱり、会社、企業、ビジネスは、すべて“人”だと思うんですよ。

山岸 - 同感です! 弊社も系列の会社で「COSMERIA」(コスメリア)という口コミサイトを運営していて、ベトナムで店頭販売を始めたのですが、ベトナムにも信頼できる仲間がいたから、そこから事業が広がってきたと感じています。だから、“ビジネスは人”というのがとてもよく分かります。場所よりも、誰と一緒にやると心地よいか、楽しいかといったことから、どこでやるかという流れですよね。

三宅 - そう思います。そして“人”の次に見極める“場所”については、「ネクストシティかどうか」ということが大切ですね。

山岸 - これから発展する国かどうか、ということですか?

三宅 - 進出企業が極めて少ないところですね。流れがすでに出来上がっているところには、まず行きません。なぜなら、流れに乗ってしまうとほかのチャンスが見えなくなってしまうんですよね。

山岸 - なるほど。

三宅 - 例えばフィリピンなら、今から弊社がセブに行ってもダメなんですよ、もう流れが出来てしまっているので。まだ、誰も進出していないところに行くわけです。

目安としては、国を問わず第3から第5都市くらいを見ていきたいですね。アルメニアなど国自体に進出している企業が少ない場合は、第1または第2都市くらいでも良いのですけど。

山岸 - なるほど、面白い視点ですね!

今後は貿易事業でグローバル展開を目指す

山岸 - 今後の御社の展望やビジョンをお聞かせいただけますか。

三宅 - 実はこれまでとはまったく違う事業をやり始めていまして。鎌倉のとあるIT企業がパートナーなんですが、ビットコインを使った貿易プラットフォームを作ったんです。決済手数料がゼロに近くて、今まで72時間かかっていた送金が1時間くらいでできちゃう。

つい先日、プレスリリースが打たれたばかりですが、今後はそのプラットフォームを活用する輸出入会社をフィリピンに作ろうかと。また、例えば日本の匠の商品をコンテンツとして入れるとか、貿易事業ですからASEAN(東南アジア諸国連合)各国に売り込んでいくといったことも視野に入りますね。ASEANだけでなく、欧州の方に出ていくことも考えています。

山岸 - では本当にもう、フィリピンだけにこだわるのではなくグローバルに展開されるわけですね。

三宅 - そうですね。ただ、興味があるのは地方都市なんですが(笑)。

山岸 - 確かに目の付け所ですよね。弊社も色んな言語に対応できますし、今後も色々とディスカッションしながら、それぞれの得意なところを持ち出しあって何かしていきたいですね。実は弊社も御社と協力して2017年3月にダバオでラボを立ち上げることが出来ました。これからの拡張が楽しみです。

三宅 - インフォさんの支社を作る際は、弊社が事業サポートしますよ。

山岸 - ぜひお願いします。今日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!