GLOBAL MARKETING INSIGHT

CEO対談
2017.4.10

「越境EC」を始めるなら、チャレンジあるのみ!
一緒に戦ってくれる仲間は、意外とたくさんいますよ。

対談者

独立行政法人 中小企業基盤整備機構
販路支援部 EC支援チーム 参事
伊原 誠 様

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中小企業を総合的に支援する「中小機構」が見た、「越境EC」の現状と展望

中小企業のライフステージに合わせ、総合的に支援を実施

山岸 - 今回は、経済産業省の独立法人である「独立行政法人中小企業基盤整備機構」・通称「中小機構」販路支援部の伊原さんに、中小企業が「越境EC」に挑む際の課題や今後の展望などについてお聞きします。最初に、事業内容についてお聞かせいただけますか。

伊原 -  「中小機構」は、中小企業の創業・起業から成長期まで、政府系金融機関が主に担っている直接融資以外の支援を基本的に担っています。支援の内容はかなり幅広いのですが、例えば創業支援に関して言えば、インキュベーション施設を全国で運営し、大学発ベンチャーや、地域の技術を持った企業の創業を支援したり、ベンチャーキャピタルと組んで投資ファンドを作って間接的に投資したりということもやっています。

山岸 - 起業時の支援だけでなく、販路開拓まで支援されているんですよね。

伊原 - はい。企業の成長期については、売り先を探すお手伝いもしています。技術力が高く、良い製品を作っている企業さんは多いと思うのですが、やはり売らないと始まりません。中小企業白書にも書いていますが、中小企業の抱える一番大きな課題は、売り先の確保、つまり販路を開拓することなんですね。

中小企業が抱える最大の課題は「販路開拓」

山岸 - 販路開拓でつまずく中小企業は多いと聞きますが、それは何故でしょうか?

伊原 - 理由のひとつには、ターゲットが何を求めているのかを事前に調べずに、自分たちが作りたいものを作ってしまう企業さんが多いということが挙げられます。

国の政策に関しても、従前は技術開発や生産性向上についての支援が中心で、「物を売る」というころまで支援できていませんでした。利益を上げるのは個々の企業の努力によるものなので、販路開拓まで支援するという発想自体難しかったんだろうと思います。

山岸 - そういう背景があったんですね。

伊原 - はい。しかし、物がない時代なら良い製品を作れば売れたと思いますし、下請けの構造がうまくいっていれば大手が製品を買ってくれたと思うのですが、物が余っている現代では良い物が必ずしも売れるとは限りませんし、大企業と下請け企業との“親子関係”も崩れてきている。その上、親企業が国内生産をやめて海外に行ってしまえば、下請け企業は自分で売り先を見つけなければなりません。

山岸 - 確かに、そうした状況は多いと聞きますね。

伊原 - もうひとつ、「海外に売っていこう」となっても、日本向けに作った製品を海外でそのまま売るのは難しいという状況があります。例えば、日本人のサイズに合わせて作った洋服は海外では小さくて着られないとか、色やファッションの好みも違う。ですから海外で売っていくためには事前のリサーチが欠かせませんし、売り始めてからも状況を見定めて臨機応変に対応していく必要があるわけです。
とは言え販路開拓は利益に直結するので、当初は我々も政策を前面に押し出せずにいました。そんな中、5年前にトヨタ出身の高田理事長がトップに就任し、「支援した企業の売上を上げ、成長させるまでが我々の仕事だ」と方針を示したことをきっかけに、2013年、販路開拓に特化した部署を作ることになったのです。

「越境EC」を始めるための補助金もある

山岸 - 「中小機構」さんでは、海外進出の支援をされている中で、「越境EC」にも力を入れられていますよね。

伊原 - はい。我々が行っている販路開拓支援は大きく3つあり、①WEBや展示会を通じたビジネスマッチング支援、②海外マーケットへの展開支援、③EC (イーコマース) 支援に分かれます。2016年は「越境EC」の啓蒙を兼ねて、東京・大阪・福岡といった都市部だけでなく、全国10カ所で「越境EC」で成功するための勉強会を行いました。また「越境EC」に関係するサービスやツールを提供する企業との出会いの場となる「越境ECフェスティバル」というマッチングイベントなども開催しています。

山岸 - 2016年には弊社も、北海道から鹿児島まで10カ所のセミナーに出させていただきましたね。「越境EC」に関する相談は、セミナーを始めた2年前に比べると増えていますか?

伊原 - そうですね。数年前は「越境ECってどんなものかな」という様子見の状態でしたが、マスコミが取り上げてくれていることもあり、関心度はかなり上がってきていると思います。
2016年は、全国で延べ1,500名が参加した勉強会で越境ECの基礎から実務的な内容を提供しましたし、「越境EC」を立ちあげるため最大100万円 (全体の2/3迄) を補助する事業で約150社を採択しました。

山岸 - ちなみに、多くの中小企業が進出したいと考えている国はどのあたりなのでしょうか。当社でも以前は中国が多かったのですが、最近は東南アジアへの進出相談も増えています。

伊原 - 今回の「越境EC」の補助金はTPPを推進するための予算だったため、対象国がTPP交渉参加国に限定されていたこともあり、アメリカとシンガポールで全体の6割を占めていました。TPPですから中国は入っていませんが、もし中国が入れば中国もかなり関心度が高かったでしょうね。

山岸 - とは言え、関心度合が高い国が成功確率も高いかというと、そうではないですよね。私は中国より東南アジアのほうが、可能性もチャンスもあると思っているんですけど。

伊原 - 今回の補助金でも、マレーシアやベトナムなどを目指す企業さんは多かったです。
※傾向の表を出していただく。

東京と地方企業とでは、越境ECに関する熱感が圧倒的に違う

山岸 - 「中小機構」さんには日本全国から「越境EC」の相談があると思いますが、東京と地方では熱感は違いますか?

伊原 - ひとことで言うと、圧倒的に違います。

山岸 - そんなに違うんですか!

伊原 - セミナーへの参加人数や補助金申請数などの分布を見ると、明らかに東京・大阪・福岡などの大都市で相当数を占めています。都道府県によっては申請がないところもありますし、やはり実際に「越境EC」をやろうという企業さんは東京が圧倒的に多いですね。
私どものPRや啓蒙が足りないことも理由のひとつだと思いますが、地方ではそこまでの熱感がないというか、「国内の同業他社がまだやっていないから、うちもまだやらなくていい」と考えている企業さんが多いのかもしれません。これは「越境EC」に限らず、海外進出全体に言えることですが。

山岸 - それはありますね。でも本当は海外進出という面では、注目しなければならないのは“隣にある日本企業”ではなく、韓国や中国といった“隣国の企業”なんですけどね。

伊原 - その通りだと思います。ですから今後も継続的にセミナーなどを開催して、地方でも「越境ECに挑戦したい」と思ってもらえる企業を増やしていく必要があると感じています。

山岸 - 確かに。逆に言うと、東京とか都市部の企業が頑張って実績を出して、地方まで広げていくことが重要ということですよね。

伊原 - そうですね。今後はうちが支援して成功した企業さんの中で、特に事業規模の小さな企業の社長さんをセミナーなどにお呼びして、経験を語ってもらおうと思っています。

ツールを使いこなせば、低コストで海外に挑戦できる!

山岸 - 「越境EC」について寄せられる相談の中で、特に多いものはありますか?

伊原 - 一番多いのは、「ノウハウがない」という相談ですね。

山岸 - どうやって始めればいいか、進め方も分からないという?

伊原 - はい。あとは実施に向けて会社の体制面に不安があるというものです。例えば海外向けサイトを作るには現地の言葉に翻訳するわけですが、英語のできる社員を採用するにはコストがかかる。かといってどんどん外注すれば結局コストかかって、利益が出なくなってしまうかもしれないと。

山岸 - 「国内市場が縮小するのは分かっているけれど、ノウハウがなくて海外に出られない」というジレンマを抱えていると。

伊原 - 私たちとしては、ある程度の体制づくりをする必要はあるものの、最初は外注に頼ってテストマーケティング的な意味でスタートしても良いのではないかと。例えば、ネットモールに出店するだけならコストは抑えられますし、売れることが分かったら自社にノウハウを蓄積し、外注をやめて人を採用していくというステップが大切だと考えています。

山岸 - 弊社の関連会社でも昨年、化粧品の口コミサイトを立ち上げまして、今は中国語・ベトナム語・英語で展開しているのですが、運営スタッフは現地の言葉がよく分からないんですよ。でもGoogle翻訳などのツールを活用したりして、意外となんとかなっています。
それで思うのは、実は私たちの周りには、使えるツールや情報がかなり増えてきているなと。翻訳を外注しても、従来なら1文字20円だったのが、今なら6円くらいにまで下がってきています。配送も今はいろいろな手段がありますし、ネットモールだって20年前はなかったですけど、今ならアメリカのアマゾングローバルにだって2~3日あれば出店できる。

伊原 - でも残念ながら、それらを上手に使いこなせている企業さんが少ない。そこがもったいないですよね。我々としては、そうした有力なツールを提供している事業者さんを紹介するマッチングイベントなどを積極的に行っていきたいと考えています。

気軽に越境EC

伊原 - 最近は、越境ECを支援してくれる企業はとても増えています。丸ごと全部お願いできるところから翻訳だけを請け負っているところなどまでさまざまですが、それによって越境ECは挑戦しやすくなりました。
その反面、支援をお願いできる企業の数が増えたため、どこに頼めば良いかが分かりにくくなっています。

山岸 - 相談したくても、どの会社に依頼すれば何をしてもらえるのかが分からない状態ですよね。

伊原 - はい。そのため「中小機構」では、2017年2月に開催したECイベントから、私どもがお付き合いし、信頼できる企業さんをリストアップしたガイドブックを新たに作成しました。また、常に気軽に相談できる体制を整えるため、いつでも「越境EC」専門の相談が受けられる準備を進めています。

山岸 - ITを使えば地方でも相談対応しやすいですよね。

伊原 - まずは2017年度中に東京で相談を受けられる体制を整備し、メールやインターネットを活用したテレビ相談機能なども活用して全国の相談に対応していきたいと思っています。

山岸 - ちなみに「越境EC」の相談をする際、事前に考えておいてほしいことはありますか?

伊原 - 確かに「この国で売りたい」など、ある程度ターゲットが明確であると相談にのりやすいのですが、なくてももちろん大丈夫なので、気軽に相談してもらえればと思います。実は、海外展開の相談では、「海外進出したいけどどうすればいいですか」という、漠然とした相談もとても多いんですよ。
「どんな商品を売りたいですか」、「この商品はアメリカに売っていきましょう」などと話を詰めていって、「ニーズはあるので販売までのロードマップをつくってはどうですか」などと相談内容をブラッシュアップして行けばいいと考えていますので。

山岸 - 民間の企業からすると、「越境ECをやりたい」と言われれば、こちらからの質問としては「どこの国に向けて」、「何を売りたいですか」、「いつまでに」……と、どうしてもなっちゃうんですよね。「中小機構」さんでは、そうした内容をイメージ化させるところから支援されているわけですね。

伊原 - はい。計画が既に具体化されていて、個別にアクションのサポートをしてもらいたいという場合には、民間のコンサルティング会社に入ってもらうケースもあると思います。

「越境EC」で陥りがちな“失敗するパターン”とは?

山岸 - 海外展開は長期的な視点が必要ですから、成功法則と同じくらい“失敗するパターン”をたくさん学んでおいた方が良いと思っています。そこで、「中小機構」さんが今まで携わってきた中で、「越境EC」について陥りがちな“失敗するパターン”はあったりしますか?

伊原 - 「越境EC」に限らないと思うのですが、やっぱり「良い物だから売れる」と思い込んで事前の市場調査をせずに展開してしまうと、どの国をターゲットにしても失敗する可能性が高いと思います。
アマゾンでもイーベイでも、商品はよほどのことが無い限り出品できると思いますが、結局は売れない期間が続いてしまうということになりかねません。

山岸 - だいたいどんな商品でも出せますからね。

伊原 - 特に「良い商品を作っている」と自信を持っている企業が陥りがちなのですが、例えば、日本で大ヒットしたボールペンを売り出したのに売れなくて、調べてみたら現地ではシャープペンシルの方が需要が高かった……とか。つまりどんなに良い商品でも、その国の消費者向けにローカライズしないと売れないことが多いのです。
しかし「越境EC」の補助金は主にサイトの立ち上げ費用が対象であり、事前のリサーチ費用は対象とならないため、企業が事前リサーチをしづらいという側面もあります。
また日本国内からは市場を調査できないような国の場合、現地のリサーチ会社に頼む必要がありますが、そこまでする企業は少ないのが現状です。

山岸 - 現地のリサーチ会社やコンサルを頼むと、費用も労力もかかるので正直、厳しいですよね。

「EC」も「展示会」も、継続してこそ効果が出てくる

伊原 - もう一つ、「短期的に成果を求めがち」というのも“失敗するパターン”と言えると思います。数カ月くらいではまだ試行錯誤する段階なので、売れないからといって「市場がなかった」と判断するには早いのですが、ランニングコストがかさむのが怖くて短期間で諦めてしまったり。
また、これは「越境EC」ではないのですが、海外の展示会にも同じことが言えます。海外で販路を開拓する際、展示会に出てバイヤーや代理店を探すという方法が王道ですが、出たからといってすぐに成果が出ることはほとんどありません。展示会に出るには100万円・200万円という費用がかかりますから、効果がないと1度で止めてしまう企業も多いのです。でも現地のバイヤーさんに聞くと、「なんで1回で辞めるんだ、もったいない!」と。

山岸 - 弊社も、海外の展示会に年間6~7回出ている時期がありました。それで分かったのは、「1回出るだけでは誰にも覚えてもらえない」ということ。10年も20年も出続ける必要はないと思いますし、出てすぐに問い合わせが来ることはほとんどありませんが、1年くらい後になって「展示会で貴社を知りました」という現地の企業から問い合わせが来て、数千万円規模の取引が決まったこともあります。私たちも、全然知らないブランドの製品は店頭で見てもなかなか当日買ったりはしませんから、それと同じですよね。

「モール イン モール」で、日本企業をまとめてPR

山岸 - ところで「越境EC」の補助金は、今後も継続的に出るのでしょうか?

伊原 - 2017年度以降は国からの補助金はなくなりますが、少し規模は小さくなるものの「中小機構」からは引き続き助成金という形で出せるよう検討しています。

構想としては、2017年度はネットモールに出るだけでも対象にして、コストも補助費も下げながらやっていきたいなと。

山岸 - ああ、なるほど! それも助かりますね。

伊原 - 実はもう一つ構想があるんです。企業内に体制が整っていない・経験もない中で、自社だけでECサイトを運営していくのはやはりハードルが高いですよね。その上、ネットモールに出ても商品を認知してもらうのはかなり大変です。そこで「中小機構」として100社・200社の企業を集めて、現地のネットモール内にいわゆるモール イン モールを作れないかと。

山岸 - 「日本ショップ」みたいなものですね。

伊原 - はい。その中でさらにカテゴリ別でも見られるようにするなど、まだ検討の余地はありますが、いずれにしても「中小機構」がモールと協議して出すわけです。うちを経由することで企業はより簡単に出店することができ、ある程度継続して出せるのではないかと思っています。

山岸 - ぜひ、そのwebサイトを弊社で作らせてください(笑)。

「チャレンジしないと、始まらない!」

山岸 - これから「越境EC」を始めたいと考える企業に向けて、アドバイスをいただけますか?

伊原 - 「チャレンジしないと、始まらない!」と言いたいですね。いろんな課題はあると思いますが、不安なことがあれば気軽に相談していただきたいですし、資金的な援助や販路開拓の方法など、継続的にフォローアップしていきますので、ぜひ!

山岸 - 「越境EC」にチャレンジするなら、現地に行ってみるのもいいですよね。例えば、近年EC市場が盛り上がってきている東南アジアなら、LCCを使えば東京から大阪に行くより安いですし。言葉は分からなくても、現地の空気を肌で感じて、同じような商品を売っているショップを見たりするのは大事ですよね。

伊原 - そうですね。やっぱり売り先の国は、必ず一度は訪れたほうが良いと思います。

山岸 - その国の文化やそこで暮らす人たちのことを知って、好きにならないと、押しつけになっちゃいますもんね。

伊原 - ええ、売りたい人の顔が見えないまま売るのはなかなか難しいと思いますね。

山岸 - いくら「越境EC」だと言っても、やっぱりそうですね。

伊原 - 今後は海外のアンテナショップに、「越境EC」にチャレンジしている企業の商品を置かせてもらい、webとリアルをオムニチャンネル構想のように連携させていきたいんです。

山岸 - それは面白そうですね。

伊原 - そして実際に商品を手に取ってもらい、現地の消費者の生の声を企業にフィードバックして、商品開発をし直してもらう。それを再度「越境EC」に載せていくという流れを作っていけたらと思っています。

海外から求められている今こそ、一歩を踏み出して

山岸 - 実は、先ほどお話をした化粧品の口コミサイトでも同じようなことをやっているんです。すでにベトナムでは、現地のショップに日本製化粧品専用の陳列棚を作ってもらいました。

伊原 - そうなんですか!

山岸 - はい。実際に商品を試しながら口コミも確認できるようにすることで、消費者に安心感を与えることができたようですし、商品自体もとても好評でした。
それにしても、やはり韓国や中国はアジアにどんどん進出していてすごいですね。先ほど伊原さんも話されていましたが、“隣の企業”って、もはや日本企業ではなくて“隣の韓国や中国”なんですよね。そこから目をそらさずに、「では海外進出するタイミングはいつなのか?」、「今やらなくてもいいのか?」を考えていかないと。

伊原 -  私がインドに行ったときも、「なんで日本企業は来ないんだ、中国や韓国などはどんどん進出してきてすごいぞ」、「なんで良い商品を持っているのに、日本企業は全然来ないんだ」と言われて……。つまり、日本製品を求めてくれているんですよ。

山岸 - せっかくのチャンス、逃してしまうのはもったいない!

伊原 - そうした海外からの声を、私たちはきちんと企業側に伝えていく必要がありますよね。そして海外進出に向けて一歩を踏み出そうと思ったら、ぜひ私たちのところに来てもらいたいと思います。その時は、全力でサポートしますから!

山岸 - 伊原さん、今回はどうもありがとうございました!