外資系転職サイト「Daijob.com」の運営企業のトップに聞く、“今、本当に求められている人材”とは?
グローバル企業で働きたい優秀なバイリンガル人材と外資系・グローバル日系企業をつなぐサービスを展開
今回は、累積51万人が登録する日本最大級の外資系転職サイト「Daijob.com」(ダイジョブドットコム)を運営する、ダイジョブ・グローバルリクルーティング株式会社の代表取締役社長・篠原さんにお話を伺っていきます。まずは御社の事業について教えていただけますか。
篠原 - 弊社が運営する転職サイト「Daijob.com」(以降、ダイジョブドットコム)は、日本における外資系転職サイトの先駆けです。外国人が登録するサイトと勘違いされることが多いのですが、元々は日本人のバイリンガルのためのサイトとしてスタートしました。外資系企業からの、「日本に進出する際に人材紹介会社と日本語で上手く話ができないので、ダイレクトにリクルーティングできるサイトが欲しい」というニーズを受けて作られたサイトですから、やはり外資系企業のお客さんが多くなっています。
山岸 - 日本でビジネスをするなら、お客さんは日本人ですからね。
篠原 - はい。その後、ヒューマンホールディングス株式会社が買収して今の形になりました。サイトの創設から数えると来年(2018年)で20周年になります。
山岸 - その頃、日本にはバイリンガルをターゲットにした転職サイトはありませんでしたよね。
篠原 - なかったですね。1998年はちょうど、アメリカでGoogleが法人化された年でもあります。その後、リーマンショックなどで厳しい時期もありましたが、2013年になって私が代表取締役に就任し、人材紹介事業も始めました。そしてもう1つ、「Daijob Go Global Career Fair」(ダイジョブ ゴー グローバル キャリアフェア)という合同説明会も定期的に開催しており、この3つが弊社の主力事業になっています。
海外で働きたい日本人向けの転職情報サイト「Working Abroad」も好調
山岸 - メインとなる事業はやはり、長くやっているダイジョブドットコムですか。
篠原 - そうですね。2014年からは「Working Abroad」(以降、ワーキングアブロード)という、海外で働きたい日本人向けの職業紹介サイトの運営も始めました。こちらは日本人を海外に送り出すためのサイトで、デザイン自体はシンプルですが、嬉しいことに多くの方にご登録いただいております。英語が流暢でなくても海外で挑戦したいと考えている日本人にも求人情報を届けたいと当初は考えていましたが、フタを開けてみたら英語レベルが高い方も多くて。
山岸 - ワーキングアブロードの登録者は、ダイジョブドットコムのほうでも登録を?
篠原 - はい。今ではダイジョブドットコムの登録者のうち2割程度がワーキングアブロード経由で登録しています。2つのサイトはデータベースが同じですので、広告費をかけずに登録者を増やせています。
山岸 - 切り口を変えたわけですね。そうした新しい事業の立案は、篠原社長がされているんですか?
篠原 - 弊社は比較的規模が小さいので、2週間に1回、部門の責任者が集まって経営会議をやっているのですが、その中で皆で考えて方針などを立てています。そこで出てきたものを煮詰めていく感じですね。
山岸 - なるほど、ではワーキングアブロードについては、それがうまく当たったんですね。
ダイジョブドットコムのバイリンガル人材の言語の配分は、どのようになっているのでしょうか。
篠原 - 英語はビジネスレベルのユーザーが7割以上で、圧倒的に日本語と英語のバイリンガルが多いですね。例えば中国語が第一言語の人は英語を話せることも多いので、3カ国語を話せるトリリンガルもたくさんいます。
山岸 - そうなんですね。
篠原 - 外国人の登録者数については、昨年からIT系をもっと外国人に開いていこうと方針転換したために、増えてきていますね。
山岸 - それでは今後も、外国人の比率は増えて行きそうですね。
篠原 - 日本の労働人口は限られていますし、どんどん高齢化して減っていくと思いますから、若くて優秀なエンジニアは海外から採用していかなければならないと考えています。エンジニアの質も、海外の人の方が高かったりしますので……。
45歳で単身、中国へ!海外の人と働く難しさを知る
山岸 - 篠原社長の経歴についてお聞かせください。45歳で中国に渡られたということで、大変なご苦労があったのでは?
篠原 - もともと新卒から19年間、大手の出版情報会社で働いていました。そこではスクール系の学生募集媒体の編集長まで任せてもらいましたが、インターネットの時代に入るとお客様の予算がリスティング広告などに回されてしまうようになり、紙ベースでのマッチングビジネスは負けてくるんですよね。リスティング広告にはレポートなどもあって、数字で成果が見えますから厳しくて。
山岸 - そうですよね。
篠原 - それで2008年に、転職先を決めずに会社を辞めたんです。IT系に行くか海外に出るかで迷ったのですが、web構築をしている会社のリスティング部門に入りました。リーマンショックの翌年だったので転職先の部門の業績が厳しく、20億円くらいあった売上が一気に12~13億円くらいにまで落ち込んでいたものの、2年ほどでなんとか黒字にまで巻き返すことができました。それから数年後、その会社が中国の厦門(アモイ)にある現地企業をM&Aしたのですが、現地に駐在する予定だった役員が退職してしまって。それで「海外にチャレンジするチャンスが巡ってきた!」と思い、自ら手を挙げました。中国語はまったく話せない状態でしたが、何とかなるだろうと(笑)。
山岸 - 取りあえず行ってからという感じですか。
篠原 - はい。現地での基盤がない中で、厦門の会社を何とかしようという話と同時に、上海のオフィスも並行して設立しようということになり、2011年に単身上海に渡りました。それからはもう、がむしゃらに働きましたね。でも1年経っても追加のスタッフが誰も来ない(笑)。
山岸 - 1人きりで! それはハードですね。その後、日本へ戻られたのは?
篠原 - 結局、上海のオフィスは会社の方針で閉めることになってしまったんですが、その過程で私はダイジョブの親会社ヒューマンへの転職が決まり、現地でさらに1年働いて、2013年に帰国しました。今となっては、その経験が現在も活かせていると感じています。海外の人と働く難しさは身を持って知ったと言うか……日本では30分で済む打ち合わせが5時間かかるとか(笑)。
山岸 - わかります(笑)。弊社でも、例えばインドの会社と一緒に制作などすることがあるのですが、こちらが8割の仕上がりで良いと思えばうまくいくものの、日本人の性格だと「ここをやってもらいたいがために20時間、数10万円かけて本当に意味があるかな?」というようなことが多々ありますよね。
外国人人材を上手く活用するには、高いマネジメントスキルが必要
山岸 - 御社の運営するダイジョブドットコムは、IT系のバイリンガル人材が多いことで知られる転職サイトですよね。
篠原 - 世界各国から偏りがなく優秀なIT人材を集められるサイトは、弊社が運営する「Daijob.com」しかないと思っています。ちなみにIT系に絞り込んでいる最大の理由は、ITの技術者のスキルが世界共通だからなんです。
山岸 - ゲーム会社なども多くが「人がいない」と悲鳴を上げているようですし、流れが来ていますよね。
私は海外の人と話すことも多いのですが、外国人からすると日本の企業はまだまだ働きにくいところもあるようです。人材不足を解消するためには企業側が意識を変えていく必要があるでしょうね。
篠原 - そう思います。中国で働いている時に感じたのが、日本人の「やっておけ、自分で考えろ、空気を読め」というマネジメントでした。これでは海外の人たちにはまったく通じないなと思いましたね。「外国人が使えない」というのはマネジメントする側の問題で、外国人の習慣や文化以上に大事なのがマネジメントスキルではないでしょうか。
山岸 - それは確かに。雇われている外国人の資質よりも、こちらがスタッフを管理する能力があるかどうかがポイントかと。
篠原 - はい。特に海外で業績が伸びてきている企業を見てみると、中間管理職のマネジメントスキルが高いように思いますね。
山岸 - 登録されているのは中途の人が多いのですか?
篠原 - そうですね。基本は中途で、その中でもミッドキャリア以上をターゲットにしています。年齢的には20代半ばから40代前半の人がほとんどで、キャリアは日本で言うと係長やそれ以上です。
山岸 - 御社のサービスを使われている企業はやはりIT系が多いですか?
篠原 - IT系のほか、経理や人事といったバックオフィス系、営業職やマーケティング営業職も多いですね。IT系の登録者の占める割合が高いのには理由がありまして、1998年にサイトが出来た当時は、webサイトで求職をするのはIT系くらいしかなかったためなんですよ。
山岸 - 自分はその頃、まだアメリカで大学に通っていましたね。ジョブサイトはまだほとんどなくて、あっても業界ごとにも分かれていないような内容でした。
篠原 - そうですよね。なので、弊社のサイトもIT技術者に多く使われていて、口コミを通して広がっているという感じでした。
高度IT人材の需要は高まるばかり
山岸 - 御社のサイトを企業が利用しての成功事例と言うと、「良い人材が見つかった」、「たくさん応募が来た」という2つのケースでしょうか。
篠原 - ダイジョブドットコムは大手と比べると登録者の母数こそ少ないものの、スカウトの返信率は20%程度もあるんです。一般的な求人サイトが5%以下ですから、約4倍ですね。
山岸 - スカウトの返信率が高いのはスゴイですね。
篠原 - 業界ではトップクラスだと思います。またかなり絞り込んで検索できるため、たくさんの求職者が1つの求人案件に大勢集まるというより、本当に来て欲しい人材がピンポイントで応募してくるようなイメージなんです。ですからKPIで計っていくと、内定する数などは大手のサイトとほぼ一緒になってくるんですね。
山岸 - たくさん応募があったとしても結局、採用するのは少人数だと思いますし、あらかじめスクリーニングされているのは助かりますね。
篠原 - 最近の傾向としては、日本にはあまりいない高度IT人材、AI、セキュリティ、IOT関係の案件数が増えています。2015年は0件だったのですが、2016年には10数件、そして今年は9月の時点で30件以上もあるんですね。しかも面白いのが、通常はポジションによって報酬額に差が出るのですが、エグゼクティブマネージャーとスタッフとで差がほとんど出ていないんです。スタッフでも1,000万円を超えているほどで。
山岸 - それだけ貴重な人材ということなんでしょうか。
篠原 - その通りだと思います。具体的には、これは人材紹介での例なのですが、前職でAIを設計する仕事をされていた海外の方がいまして、年俸は500万円だったそうなのですが、今回、お客様企業での採用が決まって800万円まで報酬アップになったとか。その人は日本語が話せないんですよ。これはあくまでひとつの例ですが、そういった話を聞くと、やはりAIの分野の人材のニーズは高まってきていると実感しますね。
山岸 - AIの分野は、日本はこれから頑張らないといけないと思うのですが、やはり人材の確保が難しそうですね。
篠原 - 優秀な人材が不足する最大の理由は報酬が低いことにあります。良い人材を集めようとするなら、今後は一定の報酬まで上げていかないといけません。
山岸 - そうですよね。そして海外からわざわざ来る以上は、報酬もそうですが住みよい環境を整えなければ……。考えさせられますね。
“低コスト”にこだわると優秀な人材は獲得できない
山岸 - 御社のサービスを活用しているのは、これから海外進出していこうという企業さんが多いのでしょうか。
篠原 - 一時期多かったのが、JASDAQ(ジャスダック)に上場しているくらいの規模で、これから海外進出しようという企業からの「海外のオフィスで働ける経営者」のオーダーです。現地で失敗して事業縮小や撤退を余儀なくされた企業からの「現地で上手くコミュニケーションを取れる人材」や、「現地化するために別のパートナーを探したい」というオーダーもよくありますね。また未だにニーズが高いのが、「現地の現場で技術者と技術の打ち合わせができる日本人技術者」です。
山岸 - なるほど面白いですね。
ではこれから海外進出していこうとする日本の企業に向けて、外国人スタッフの扱い方についてのアドバイスをいただけますか。
篠原 - 私が海外で仕事をした時に感じたのは、「日系企業は“低コスト”を求めて海外に出て行く」ということでした。これが例えば、マーケットが成長しつつある中国やインドといった、サービスインしていかないといけないようなところでも変わらないんですね。マーケットインしようとする際は、本当ならコストをかけてでも本当に優秀な人材を集める必要があるのに、低コストにこだわるあまりに優秀な人が来ないんです。
山岸 - 確かに、アジアで日本の企業が進出しているケースを見ると、IT企業などではなく飲食店や製造業などばかりですよね。
篠原 - 弊社では、国籍や性別を問わずスキルや実力で評価される会社・人材を作っていきたいという願いから、いわゆるボーダーレス化を理念として掲げています。色々な国籍のスタッフが一緒に働いている職場環境が増えれば、最終的には世界平和につながるのではないかと考えているわけです。そうした観点から、安い賃金で人材を雇おうとする企業は応援できないんですよね。
山岸 - わかります。
篠原 - 弊社のような会社が言うのはおこがましいですが、優秀な人材を適切な報酬で雇用するという視点がないと海外の人たちとはチームになれません。日系企業はそのあたりがヘタなんですよね。一方、アメリカ系の企業などは良い人材を獲得するためにはコストは厭わないので、スタートが早い。
山岸 - 本当にそうですよね。アメリカ系の企業のスタートと徹底の速さはピカイチです。ダメだと思ったらすぐに退く。市場は広いので、無理だと思ったら別の市場を探せばいいと。そこが日本とは違う。
篠原 - 我々も海外には出たいですけど、今は我慢しています。ネットでビジネスをするなら世界中どこに拠点を置いてもそれほど違いはありませんし、資源が集まりやすい東京で成功できなければ海外では成功できないと思っていますので。
オリンピック終了後もビジネスで戦っていくために
山岸 - 今後、2020年の東京オリンピックに向けて市場は活況すると思いますが、今後の御社の展望などをお聞かせいただけますか。
篠原 - これまで、オリンピックが終わった後に景気が良くなった国はアメリカくらいしかありません。ですから色んなところで「オリンピックの手前くらいで厳しくなる」、「日本もおそらくそうなるだろう」と言われています。しかし弊社では、IT人材はこれから需要が高まり、確実に成長するだろうと考えています。また、もし日本で「カジノを中心とした統合型リゾート(IR)を推進する法案」(カジノ法案)が決まれば、巨額の外資が流れ込み、オリンピック以降の日本の基盤を支えていくでしょう。弊社ではそうした動きも見据えて、今後もバイリンガル人材に特化しつつ、IT人材へのシフトを図っていければと思っています。
山岸 - 弊社も広告業ですので景気に左右される面はあるのですが、景気が変動する中でも世界で戦えるようにしていかないと、日本企業の20年後、30年後、50年後の未来はどうなっていくのかという不安があります。
篠原 - その通りですね。日本は“世界一働く人が集まっている国”と言われていますが、これは“世界一生産性の低い国”とも言えます。働くのは良いことですから、なんとか日本も大きくなっていってほしいのですが。
山岸 - 最後に。篠原社長は45歳で海外にチャレンジしたわけですが、もちろんどんな年齢になってもチャンスはあると思いつつ、年齢を理由に踏みとどまってしまう方も多いと思います。そんな人たちに、何かアドバイスをいただけますか。
篠原 - ビジネスにおいて、「この年齢では無理」ということはないと思うんです。むしろ長年同じことを続けてやっていると、ルーチン化して同じ景色しか見えなくなってしまったり、「頑張っても無理だ」という閉塞感を感じてしまったりします。
山岸 - そうしたケースはありがちですよね。
篠原 - ですが新しいところに行けば、しばらくは新しい知識を得るために大変ですが、新しい景色が広がって成長できると思っています。
山岸 - それはぜひ若い人に聞いて欲しい話ですね! 今日はお忙しいところ、ありがとうございました。