ドバイ進出には、「世界を目指す日本企業がやるべきこと」が隠されている
「ITやインターネットを活用して、海外進出!」
山岸 - 今回は「グローバルパートナーズ」の代表取締役社長・山本さんに日本ではあまり知られていないドバイの現地事情や日本企業のドバイ進出の展望などをお聞きしていきます。
まずは会社設立に至るまでの経緯などをお聞かせいただけますか。
山本 - はい。僕は元々、株式会社光通信という東証一部上場の情報通信系商社で1990年代から20年間、日本企業にWebや通信を普及させる仕事をしていました。中小企業はもちろん教育機関や病院などに携帯電話やインターネット環境を導入してもらって世の中を便利にしていくことにやりがいを感じていたのです。「人生かけてこれをやろう」と思っていたのですが、10年もしないうちに日本中の企業にも個人にもみなさんに普及したのでそこに醍醐味を感じなくなってしまったんですね。その後、業種別の子会社を数社作って、各業種を俯瞰し、ITソリューションで各社の売上アップ、課題解決をしていく事業をしました。
山岸 - 一貫して中小企業の支援をされてきたんですね。
山本 - はい。そして建設、飲食、介護といった業界ごとの課題を解決していく中で、日本全体のことを考えるようになりました。例えば、お医者さんがカルテをドイツ語で手書きしてもそれを誰も読めなかったり、タクシーの運転手さんが地図をペラペラめくってお客さんをずっと待たせていたりしているけれど、こういったことはITやWebを活用していくことで変えられるのではないか。政治・経済・歴史について学べば学ぶほど、僕らがこうやって幸せな暮らしができているのは、先代・先々代の人たちが道を作って苦労したからであって、我々の世代はその環境の中で生きているだけじゃないかと。
山岸 - それは本当に感謝ですよね。
山本 - でもこのままいくと、自分たちの子や孫が大人になる頃には、日本は世界でも30位・50位と経済力が低迷して、人口も減っていきます。財政や少子化、医療問題もほとんどが解決できなくて、50年後、僕らの世代は「あのキリギリス世代のせいで、日本はもう再建できなくなった」と言われるかもしれない。そのくせ僕らは子や孫に「英語や中国語を勉強しろ」、「グローバルだ」と言っているだけじゃないのかと。
山岸 - このままでは、それで終わっちゃいますよね、、、。
山本 - そうなんです。今後、新興国の人たちが発展して一気に人口や1人当たりGDPを伸ばしある程度の踊り場にいくでしょうから、その時まで僕らが何もせずそのまま子や孫にバトンを渡すようなことをしたらどうなるか、、、と考えると怖いですよね。
そんなことを10数年前に考えた時、ITやWebを活用して国内ではなく海外でやっていきたいと思うようになったんです。その後、「アリババドットコム」を第三者的に知り、2009年、これを日本国内に販売サポートするために、「光通信」、「ソフトバンク」、「アリババ」の合弁企業として前身となる会社を設立しました。
成功の鍵はズバリ、「人」
山岸 - 設立後、どう展開されていったか教えていただけますか。
山本 - インターネットを活用して海外の取引先を見つける、という提案でようやく事業が軌道に乗り始めた頃、お客様に実際どうかとインタビューして歩いたことがあるんです。すると何億円も売り上げている会社と、サンプル品程度の輸出で売上も10万円とかで終わってしまう会社がある。何がポイントか。会社の体制や人材に違いがあることが分かったんです。
山岸 - 会社の体制と人材ですか。
山本 - はい。人がいないと価格と数量をメールで送るだけになりがちです。ですが人がいれば、現地の消費者ニーズや競合他社、流通構造、法規制に合わせたマーケティングや課題解決ができます。そもそも顔と名前が一致しない海外の人や会社に大口取引を期待する考えが甘いですよね。
中小企業さんに「グローバルセールス&マーケティング専門のスタッフを雇いましょう」、「人材を育てましょう」と言ってもなかなか難しいと言われる。90年代くらいまでは総合商社さんが海外でガンガン飛び込みをして道を作ってくれたので世界に日本製品が売れる導線が出来ました。ですがプラザ合意後の為替変動や“商社不要論”なんかが出てきてからは、大手メーカーさんは自分たちでルートセールスをするようになり、新しい製品や企業を海外に広めてくれる商社マンがほとんどいなくなってしまった。
そこで20年にわたって営業マンを大勢育ててきた僕が世界でグローバルセールス&マーケティングをする人材を育成しようと、2013年に会社名も「グローバルパートナーズ株式会社」に変更して、まずはドバイを中心としたセールスチームによる市場調査・営業代行サービスを始めたのです。
ドバイには、人は集まるが、モノづくりが苦手
山岸 - 一般的にドバイは旅行で遊びに行くようなイメージが強いのですが、なぜドバイを選ばれたんですか?
山本 - いくつかポイントがあるのですが、まず1つ目は「人口」ですね。国連の予測によると、アジアや欧米、南北アメリカの人口はもう伸びない。東アジアは現在の16億人から13億人に減っていきます。東南アジアとオセアニアを足すと6億3,000万人ですが、こちらも1割減ると予想されています。ロシアとヨーロッパは微減しますし、3億人ちょっといる北アメリカは移民などで5億人くらいまで増えますが、中南米はほぼ横ばいか少し伸びる程度。これらを合計すると、人口はほぼ横ばいです。
でもインド・中東・アフリカ、このエリアの人口は、今32億人ですが、21世紀中に70億人を超えると言われています。人口が伸びるということは、それだけチャンスがある。
山岸 - そのあたりの地域は、日本と比べると多産ですからね。
山本 - 2つ目の理由として、ドバイあたりのエリアは「モノづくりがあまり得意じゃない」。逆に中国や韓国、東南アジアのタイ、フィリピン、マレーシアあたりは、モノづくりが基幹産業です。
山岸 - 確かにそうですよね。
山本 - 後者辺りの国に日本からモノを持っていくと、最初は買ってくれるんですけど、内心では「自分たちで作れたらいいな」というのが見え隠れしていて、相手の政府や行政の協力体制を見ても中長期では売れなくなる可能性もある。
一方、ドバイとその周辺国は砂漠なので、農業も工業も元々ない。だからほとんどのものをヨーロッパやアジアから輸入しているんですね。それで、これは補完関係があるなと思いまして。
山岸 - ああ、なるほど!
ドバイは世界の貿易の拠点(ハブ:中継地)である
山本 - ドバイの人たちは、紳士的で日本をリスペクトしてくれてはいますけど、現地には日本の情報がほとんどないんです。そして中東エリアにはアラビア語という言語、宗教観の違い、政治や法律、金融の問題などもあって、なかなか商売がしづらい。
山岸 - 確かにそのイメージはありますね。
山本 - しかしドバイに限っては、30年前はただの砂漠でビル1つないような街でしたが、ヨーロッパとアジアとアフリカのど真ん中という地の利を活かして、当時のドバイの首長さんが「ここを世界の貿易の拠点にしよう」と宣言したことで、大きく変貌しました。
山岸 - 貿易拠点・交流拠点にしようというわけですね。
山本 - その通りです。元々ドバイは、クリーク(運河)という天然の港に恵まれ、古くから湾岸の港として真珠取りや漁業が主な産業の村落だったんです。
それが20 世紀に入ってから歴代のドバイ首長は、貿易活動の中心地を目指して外国商人に対する無税政策など自由貿易政策をとり、当時のライバルであったイラン側の港で活動していた商人をはじめ周辺地域の商人たちはドバイに拠点を移すようになり、次第に中継貿易港として重要な位置を占めるようになりました。
そして空港、港湾の建設・拡充、貿易センタービルの建設、ジュべル・アリ・フリーゾーンの建設、その他政府系企業の設立などに力を注ぎ、今日のドバイを築き上げたといえます。
山岸 - ああ、そうなんですか!
山本 - 各国の貿易商人は自国で作った製品をドバイに持っていって世界中に売る、もしくは物を買いにドバイに行く。インドや周辺の国々は、それぞれ事情が複雑だったり発展途上な国があったりもしますが、ドバイに行けば英語でドバイの法に則りクリーンに商取引ができるのです。
過去3年間、世界中の空港の中でもっとも外国人が利用しているのがドバイ空港で、2020年には中東初の国際万博も開催される予定です。香港やシンガポールのイイところを総取りして、やりやすく整えたのがドバイなんです。そこに日本企業は全然進出していない。
僕はドバイでのビジネスは、最初は難易度は高いけれど混み合っているアジアより後々チャンスがあると感じています。
山岸 - 確かに、それはありますね。
山本 - 当社も最近では、日本を代表する大手企業との取引も増えています。彼らはアジアや欧米には既に進出していても、中東エリアのことはほとんど知らない。仮に知っていても、「今はアジアや欧米に多くのリソースをかけているからその辺りはまだ」と。「じゃあ当社に任せてください!」、「お願いします」という話になるわけです。
世界を目指すために、ドバイで勝つ!
山岸 - 大手企業さんの中にはドバイを選択肢の1つとして考えるところもあると思うのですが、中小企業さんはどうなのでしょうか。
山本 - 我々は皆さんにまずドバイに、というより、「世界を目指しましょう」と話しています。中国や台湾では日本で人気の製品は注目されていますが、
インドより西の国々では、日本の大企業か中小企業かではなく、そもそも日本企業があまり知られていません。そういう意味では大手企業か中小企業かは関係ないのです。
ドバイは、半径30Km、端から端まで車で1時間程度の狭さにもかかわらず、欧米やアジアやアフリカ、中東エリアなど世界中のほとんどの人種がいて、いわゆるドバイ人は全体の1割程度しかいないんです。
山岸 - そうなんですね。そこまでドバイの人種が多様化していることは知りませんでした。
山本 - ですから「ドバイは世界の縮図です。ドバイで勝てるマーケティングセールスができれば、世界に出られます」とお話しています。
山岸 - ドバイで成功して世界にという考え方は斬新ですね。
そういえばドバイにジャパントレードセンターというものがあるそうですが。
山本 - 当社が作ったんです。
山岸 - ですよね! 以前、何かの記事で読ませていただいて。
山本 - ありがとうございます(笑)。最初は僕ら、ドバイで飛び込みをやっていたんです。出張営業で。
山岸 - えっ、飛び込み相手はドバイの会社ですか。
山本 - ドバイにある会社にですが、実際は世界の各国の貿易商です。日本のワイドショーとかテレビでやっているドバイ人相手のイメージと違って、ドバイには世界一の多国籍問屋街があったり、アジアやアフリカ人たちが中古タイヤや穀物を売っていたり、もちろんドバイ人と商談することもありますが、サウジアラビアやイラン、インドなど様々な国の人たちを相手にしていました。
山岸 - そうなんですね。実際、ドバイに行かれているスタッフ全員が英語に堪能なんですか。
山本 - もちろん言語に長けているスタッフもおりますが、最初から全員がネイティブレベルなわけではないですよ。最低限の意思の疎通ができる必要はありますが、ドバイにいる多くの人たちも母国語が英語というわけではありません。ですので、きれいな英語を話すことよりも伝える力が重要です。
山岸 - 確かにそうですね。とても重要なポイントだと思います。アジアの方も私たち同様英語のネイティブというわけではないですから。
山本 - 本当に。これは中小企業の皆さんに分かって欲しいですね。
ドバイは「世界への入り口」
山本 - 世界を目指すには、そのままの日本企業ではダメ。グローバル企業にならないと。
日本近隣の数か国だけでなく世界中に売りたいなら、そのままの日本製品じゃなくてユニバーサルな製品にしないと売れない。ドバイで売れるということは、競合のユニバーサルな製品に打ち勝って、様々な国籍や人種の人たちに受け入れられたということです。そしてドバイに集まる世界中の貿易商を通じて欧米、インド、アフリカ、中東の人たちに広めていけるということなのです。
山岸 - ドバイが世界への入口になっているわけですね。そうやって考えると、ドバイがとても広く感じます。
山本 - そう、広いんですよ(笑)。
山岸 - アジアに進出する時、だいたい「まずは中国」とか、国ごとに展開していきますが、ドバイだとドバイをハブにして世界を相手にできるかもしれない、ということですか。すごい面白い切り口だと思います。
山本 - その昔、欧米の人たちが日本に色々な物や文化を持ち込み、今では日本の暮らしも文化も劇的に変わりました。映画もキャラクターも欧米のものがカッコイイと感じるようになり、結婚という大事な瞬間でさえ着物ではなくウェディングドレスを着るわけですから。
山岸 - そうですね。
山本 - だから今後、本気でやれば僕らが同じように世界を変えていくこともできるかもしれない。
山岸 - ドバイを含めいろいろな国で果敢にチャレンジされている方とお話をすると私もわくわくします。
ジャパントレードセンターは「ドバイの中の日本」
山岸 - 山本さんが作ったジャパントレードセンターとは、どんなところなんですか。
山本 - ドバイでビジネスをする人たちは、日本にビザなしで来られない人たちが多い。仮に来られたとしても、言葉や風習、宗教や食べ物の問題で日本滞在は容易ではない。とは言え、彼らは日本企業とのビジネスに非常に興味を持っている。
そんな時、ドバイにあるジャパントレードセンターに立ち寄れば、英語を話せる20名以上のスタッフが、産業別にさまざまな問い合わせに対応してくれる。実際訪れてくださる方々の多くが、私たちに様々な宿題を持って来てくれるんです。
山岸 - こんな日本製品が欲しいとか?
山本 - こんな製品を作れないか、こんなビジネスがあるんだけど何か一緒にできないか、と。そこでニーズを吸い上げて、日本企業さんのサンプルを提案したり、テストマーケティングをしたり、チャネルを作ったりしているんです。
山岸 - プロダクトアウトではなくマーケットインで、現地の人が欲しいというものをマッチングして探せるわけですね。
山本 - 正直に言うと、最初はプロダクトアウトだったんです。最初の1年くらいはとにかく手当たり次第にやりましたが、大赤字で大変でした。
例えば浅草や京都で売れている“日本ぽい”モノをたくさん持っていきましたが、そのままの形ではほとんど売れなくて。結局僕らも、京都に行けば八ツ橋を買いますけど、東京駅や品川駅で売っていても買いませんよね。モスクワでお土産にマトリョーシカを買いますけど、成田や羽田で売っていても買わないのと同じです。“日本ぽい”モノを売るにはそこにひと工夫加えなければいけません。
山岸 - そのひと工夫とはどんなものなんですか?
山本 - それは企業秘密です(笑)。
山岸 - それはそうですよね(笑)。折角なので少しだけでも、、、。
山本 - そうですよね(笑)。では、、、例えば、インドより東のエリアでは淡い色や「ひらがな」のパッケージがウケますが、インドは原色が好きだし、中東は金ピカが好き。アフリカは元々ヨーロッパに植民地化されていたためデザインもヨーロッパスタイルのものが一般的なのです。ですので、“日本ぽい”モノをそのまま持っていっても、そもそも手に取ってもらえない。アジアでは日本固有の「ひらがな」や「カタカナ」が入った商品の方が売れると言いますが、中東では意味をなさないですね、、、。
山岸 - 確かにアジアでは、日本語が入っていると本物っぽいからと好まれる傾向もあったりしますよね。でもそうなんですね。
山本 - このエリアで成功している日本製品の多くは、完全にローカライズして、ヨーロッパのブランドかと思わせているほどです。現地の趣味嗜好・ニーズを捉えずそのままの感覚でいっても、一部の日本ファンや現地在住の日本人にしか売れない。潜在層というか、本当の意味で大衆の心をつかむには、現地の人たちが好きなテイストに合わせなきゃいけないんですね。
ドバイは「世界の縮図」
山岸 - 実際にビジネスをされていて、特に気を遣うのはどんなことですか?
山本 - まず僕らは、「一緒にやりたい」とか、「セミナーを聞いて興味がある」というようなお問い合わせをいただいたすべての方々とは組まないんです。
最初にブランディングやローカライズが必要なこと、物流コストがかかることなどがあって「簡単には儲かりませんよ」、「日本を超える売上を作るためには、市場調査やマーケティングをやらないと勝てませんよ」としっかり伝えた上で、本気で長期的に取り組む企業様を優先しています。
山岸 - それは重要ですよね。参考までに、ドバイの物価はどんな感じなんですか。
山本 - 感覚的には日本の2.5倍くらいですね。例えばお寿司(1皿)やうどんが1,000円~1,500円くらいのイメージです。
ただし安いエリアなら100円くらいでランチを食べられますし、ホテルも1泊数千円のところもあれば100万円のところもあり色々です。
山岸 - 貧富の差もありますか?
山本 - スゴイですよ。砂漠側にある集合住宅には月収3.5万円くらいのワーカーが暮らしています。
だからまさに、ドバイは世界の縮図なんですよ。
山岸 - なるほど。ちなみにどんな商品を扱っているのですか。
山本 - 消費材は弊社でマーケティングしやすいのですが、例えば建築資材とか医療用品とかになると高い専門知識が必要なので緩やかに進めています。今は何でも屋というよりも、本当に自信があるカテゴリーに注力している感じですね。
山岸 - 御社のサイトで読んだのですが、ドバイで日本製の包丁のニーズがあるとか。
山本 - はい、ありますが、初期のリスクを怖がりチャレンジするメーカーがほとんどいません。一方、この10年は中国勢が頑張ってきていますね。日本製っぽい包丁も彼らが流通させています。実は中国の国外にある貿易拠点で最も大きいものがドバイにありまして、ドラゴンマートと言います。巨大な施設で、5,000社くらいの中国の中小企業が集まってBtoBの常設展示会場兼小売りをやっているんですよ。物流や倉庫の初期投資は政府が負担していて、その一帯はドラゴンシティと呼ばれるチャイナタウンになっています。10数年前は日本企業が200社に対して中国企業は数社しか登記がありませんでしたが、10数年前にこの施設が出来てから中国企業の進出が加速し今はもう1万社くらいあると聞いています。日本企業は微増ですが。
山岸 - アジアでも同じことが起こっています。日本企業より韓国や中国の企業が積極的なところもありますから。
「日本企業のままでは、世界で成功できない」!
山岸 - 弊社で新しく化粧品関係の会社を作ったのですが、日本のメーカーは「アジアで売りたい」とはいうものの、それほど危機感がありません。例えば、アジアを回るとよく韓国や中国の商品を見かけますが、日本国内にいるとそうした現実に直面する機会がないので、「日本はブランド力があるし」と考えている。確かにそういう面もあるのかもしれませんが、アジアを渡り歩いて思うのは、本当にそれって今後も続くのかな?と。メディアで言われていることをただただ鵜吞みにせず、実際自分でその国に行って自分の目で確かめることは大事なことだと思います。
山本 - 日本企業は、海外でもよく日系のデパートやスーパーとかには入れますけど、現地の一般消費者をターゲットと捉えるならばもっとローカルのチャネルに流通させないとならないですよね。ですからまずは現地でマーケティングをして差別化やローカライズしなければダメなんです。私が「日本企業のままでは、世界で成功できない」と言うのは、まさにそういうことです。
現地で市民権を得て売っていくには、海外の企業が日本を攻略して売れたモノの歴史を勉強すれば良いんじゃないですかね。最初はどんな商品も無名なわけですし。
山岸 - 新商品を作るって、国内向けでもかなり大変ですよね。それなら今まで作ってきた商品に工夫をして海外向けにして売る方が、簡単な場合があるかもしれない。
山本 - そうですね。最初の3年くらいは現地の商習慣やライフスタイル、競合を真剣に勉強して、「あわよくば売上・利益が出れば良い」くらいの感覚でいないと。
ところがなぜか日本の企業って、国内では「お客様が第一」と言うのに、海外だとそういったことを軽視する傾向があるんですよ。そんな姿勢で商売がうまくいくはずがないですよね。また「取引先との信頼関係が大事」という部分も雑になりがちです。その会社にどんな歴史があって、どんな従業員がいて、どんな思いでやっているのか、その会社のお客様はどういう人たちで何に困っていて何を求めているのかを知ることが大切。それはどんな国でも同じですよね。
それでもしドバイで売れたなら、ヨーロッパをはじめ、中東、アメリカ、アジア、インドでもそこそこ受け入れてもらえるはず。「ドバイで売れているよ」と言って、インドやトルコ、エジプト、サウジアラビアに持って行ったりもできる。
山岸 - そうやって考えると、ドバイで実績が作れるというのはいいですね。
“週末ドバイ視察”で、現地を知って
山岸 - 海外進出したいと考えながら一歩を踏み出せずにいる人のために、アドバイスをお願いします!
山本 - 僕らはよく、ドバイで日本企業と取引したいという企業を日本に招聘し、日本の会社の社長と直接交流してもらったりします。“百聞は一見にしかず”、まずは知ることが何よりも大切ですから。
山岸 - 逆に、日本企業をドバイに連れて行って現地で商談の場に立ってもらったりすることもあるんですか?
山本 - 僕らがドバイに出て3年ちょっとですが、これまでに400人くらい現地に連れて行っています。
山岸 - 結構、行ってますね。
山本 - 国営のエアラインが直行便を出していて、安い時期ですと往復5万円とか6万円とか、航空券が本当に安いんですよ。ホテルも普通のところなら1泊6千円とか7千円で泊まれる。ドバイは金曜日が“安息日”で、金・土曜が休み。日曜から仕事が始まりますから、日本で金曜の仕事終わりに羽田から深夜便で飛べば、10時間でドバイに着く。時差はマイナス5時間なので、ドバイは土曜日の早朝ですね。
土曜はショッピングモールなどに行って消費者の動きを観察して、日曜はオフィスも役所も貿易も全部やっているので商談や市場を調査する。それで飛行機に乗って日本に帰れば、月曜の夕方には部下の前で「お疲れ様!」となるわけです。
山岸 - 弾丸トラベラーですね!
山本 - それで費用は7~10万円しかかからない。それをぜひ皆さんにやってほしいですね。現地に行った方がイメージを持ちやすいですから。
山岸 - そうですよね。
ドバイで成功できない企業は、どこでも成功できない
山岸 - 最後に、2020年には日本でオリンピックがありますが、それまでに御社の次の展望といいますか、ビジョンがあれば教えてください。
山本 - 2020年、ドバイで中東エリア初の国際万博が開催されます。ですから2019年くらいから「ドバイ」というキーワードでネット検索する人がすごく増えると思うんです。そこで「あれ、スゴイ会社があるね」となるのが目先の目標の一つですね(笑)
山岸 - それはいいですね(笑)
山本 - 当然、海外に出るにはどこでもリスクがあるわけで、ドバイも決して甘くはないですが、本当に世界を狙うならドバイで成功できない企業はどこでも成功できないと思います。
山岸 - なるほど。確かに海外に出ることはリスクがあるといわれますが、私は人口が減っていく日本だけで戦うことのほうがハイリスク、ローリターンに思えてなりません。
山本 - そうですね。弊社は、すでにドバイの主要企業とさまざまな契約をしていて、毎月、案件が100くらいあるうち1つか2つを選んで99は後回しにしている状態です。ドバイには、それくらいたくさんのチャンスがある。
そうそう、ドバイは世界屈指のスマホ普及率なんですが、キュレーションサイトもまだほとんどないようですし、インターネットにもたくさんチャンスがあると思いますよ。
山岸 - ITとしてもチャンスがありそうですね。
山本 - やっぱり支社ですね、ドバイに(笑)。うちは支社を作るお手伝いもしていて、ドバイに事務所を作るのもひと月たったの5万円からですよ。ビザも出せますし。
山岸 - では、早速、誰を行かせるか考えないと……(笑)。
山本社長、今日は興味深いお話をありがとうございました!