理想のマーケターは文系?理系?
~新時代に求められるART+SCIENCE思考~
現代のマーケティングに求められるのは「文系(アート)思考」?それとも「理系(サイエンス)思考」?
ここ数十年のテクノロジーの進化は、マーケティング活動に革命をもたらしたといっても過言ではありません。一昔前のマーケティングや広告宣伝活動においては「大きな看板広告、人々の目に留まるインパクトのあるTVCM、風変わりなキャッチフレーズ」など、どこか文系・アーティスト的要素が強い領域でした。しかし、現在のマーケティングは大きく姿を変えました。デジタル・テクノロジーの進化により、データ主導のマーケティングへと変貌を遂げました。
定量的な「マーケット統計、市場調査、トレンド予測」はもちろんのこと、WEB上の顧客行動を分析することで「パーソナライズされた広告キャンペーン」により的確な顧客へアプローチすることが可能になりました。データの持つ「可能性と価値」に注目が集まる現在において、データを正確に捉え、分析することはこれまで以上に重要な視点の1つとなっています。
言い換えれば、マーケティングに必要な素養として理系的統計思考(数字が読めること)が不可欠になってきたとも言えるでしょう。そうした数値・データを巧みに操るデジタルマーケティング活動が熾烈を極める現代において、「消費者に選ばれ、売上を最大化させる」にはどういったアプローチが効果的なのでしょうか?
今回は、マーケティングの歴史を振り返りながら、現代のマーケターに求められる資質「文系思考」「理系思考」という切り口からマーケティングを考えます。
時代と共に変化する「マーケティング」の形
一口に「マーケティング」と言っても、マーケティング活動はその姿を時代によって大きく変えてきました。
1450年代に印刷機が開発され、印刷広告が誕生したことにより、企業と消費者とのコミュニケーションに革命が起こりました。その後、ラジオやテレビ、看板広告などを用いる「マス広告」の時代を経て、1990年代後半にインターネットが登場。マーケティング手法が大きく変化しました。今までブラックボックスに入っていた顧客行動がデータを可視化することが可能となり、新しいアプローチの形として「デジタル広告」が誕生したのです。
さらに、テクノロジーの進化によって膨大な量のデータ取得が可能になり、1円単位のROI(投資対効果)の分析もデータによって可能になりました。「データドリブンマーケティング」という著書がベストセラーになり、デジタル広告の予算がマス広告を上回ったのは記憶に新しい出来事です。
つまり、マーケティングという概念が世界に登場して以降、人の感情に訴えかける「文系=右脳型=アーティスト型思考法」が重視された時代から、デジタルやテクノロジーの発達に伴ってマーケティングデータを分析する「理系=左脳型=サイエンティスト型思考法」が重視される時代に移り変わってきたとみることができます。今後、さらなるテクノロジーの進化によってAI・機械学習などから得たデータをもとに社会の仕組みを駆動させる「データ駆動型社会」へと移行していくと言われています。
「マーケティング」に求められる資質の変化
このような社会の仕組みが大きく変化する世の中を目前にしている現代ですが、マーケティングの文系思考的側面がもはや重要でなくなったというわけではありません。
というのも、「マーケティング」と一言で言っても手法はさまざまですが、結局の目的は「戦略・戦術によって、人々の行動に影響を与え、ブランド・製品・サービスとの良好な関係を構築すること」です。つまり、絶え間なく感情や思考がゆらぐ人間を「施策によって動かすこと」であり、あらゆる商品・サービスのコモディティ化が進む現代において、既成概念にとらわれることなく人間の行動を想像・理解して、顧客との感情的な繋がりを創造(想像)する能力が求められています。
世界中の革新的なビジネスリーダーは、数字を見つめ、ユーザーデータ分析だけで、人々の心を揺さぶる画期的なアイデアを思い付いたでしょうか?
いくらテクノロジーが発達し、人々の行動や感情が数値によって可視化できるようになったとしても、マーケティングの対象となるのは「さまざまな価値観・感情を持った人間」であるということを、データ駆動型社会へ移行する現代だからこそ忘れてはいけないのかもしれません。
現代マーケティングにおいて「文系思考」が輝くとき
芸術/アートは人間の文化を豊かにし、生活様式や考え方にまで影響を与えます。「文系=右脳型=アーティスト型思考」を備えたマーケターは、ユーザーの感情に訴えかけ、深い繋がりを築き、行動をおこさせるなど、人間の右脳に訴えかけることを得意とします。
「美しくデザインされ、思わずクリックしたくなるような魅力的な広告」
「思わず見入ってしまう物語/ストーリー展開をもった動画」
「人の感情を揺り動かし、議論を生むクリエイティブ」
人の感情に触れ、訴えかける独創的で傑出したキャンペーンは「文系=右脳型=アーティスト型思考」が生み出す産物といえます。正確なデータを把握することは、自らのビジネスを正確に捉え企業がより良い意思決定を行うために必要不可欠なものです。一方で、モノや情報があふることで飽和状態となっている市場において自社製品の「機能性、購入方法、使い方」をマーケティングで積極的にアピールしても、ユーザーとブランドの間に感情的な結びつきを築くことが難しい時代になっていることは事実です。
そうした時代のなかで、実にB2Bバイヤーの50%は、ブランドに「感情移入」すると購入する可能性が高くなると回答しているのです。(出典:LinkedIn)現代マーケティングで「文系思考」が大いにその力を発揮するのは、モノや情報があふれる世界にあって自社商品・サービス(ブランド)とユーザーのエモーショナルな関係性を築く瞬間といえます。
“The purpose of art is washing the dust of daily life off our souls.”
芸術の目的は、我々の魂から日常生活の垢を洗い流すことである
科学がなければ生き残っていくことは難しいかもしれませんが、こうしてパブロ・ピカソが述べたように「文系=右脳型=アーティスト型思考」がなければ、私たちのビジネスも無色で味気のないものになってしまうのではないでしょうか?
現代マーケティングにおいて「理系思考」が輝くとき
この十数年におけるデジタル・テクノロジーの進展に伴って、企業のマーケティングの目的は変化してきました。ページビュー、直帰率、メール開封率、ページ滞在時間、コンテンツアクセス履歴など…デジタル技術の発達は人々の「行動・感情」といったデータの可視化を可能にしました。企業も、データを中心としたデータドリブン型経営へと舵を切り始めたのです。Forbes社の調査によれば、マーケティングとセールスにおいて「データ主導の意思決定を行わない企業は、マーケティングROIの15~20%の損失がある」と言われています。
データドリブンマーケティングは、定性的な推測に頼ることなく顧客データを定量的に分析することで「ターゲットとなる購買者が誰なのか、どこにいるのか、どうすれば彼らを惹きつけることができるのか」などを見極めることができるのです。ウェブサイトの構成やツイートを投稿する時間帯など、マーケターの施策判断がデータによって裏付けることができるようになり、データを元にマーケティング戦略・戦術のPDCAサイクルを繰り返すことで、施策の速やかな最適化・改善が可能になりました。
マーケティング担当者の64%が、グローバル経済で成功するためにはデータ主導型のマーケティングが不可欠であることに「強く同意する」という調査結果(出典:Forbes)が示すように、自らのビジネスチャンスを的確な時機に捉えることでより良い意思決定を行うためには、マーケターの「理系=左脳型=サイエンティスト型思考」は必要不可欠な資質です。
さいごに
デジタルを中心とした現代のマーケティング活動には、文系思考・理系思考両側面の資質が必要であるといえます。「創造性・直感・感情」を軸とするアート思考によってユーザー・顧客・社会の心を揺さぶるコンテンツを創造するとともに、「定量分析・統計分析」に軸足を置くサイエンティスト的視点に立ってマーケティング施策の効果を測定してPDCAサイクルを回す。つまるところ、現代を生きるマーケターに求められるのは、こうした「文系思考と理系思考の融合」を経たバランスのとれたマーケティング感性ともいえるかもしれません。
インフォキュービック・ジャパンでは、こうした新時代のマーケターに求められる感覚を胸に、日本企業の海外市場に向けたグローバルマーケティングをご支援しています。日本企業と海外市場を繋ぐグローバルマーケティングに関してお困りでしたら、ぜひお声掛けください!
吉田 真帆 マーケティング部 プランナー
コンテンツ・SNS・メールマーケティングを統括しています。 オーストラリア永住権を取得したにも関わらず、思いもよらず日本に帰国。日本9年を経て、現在はシンガポールからフルリモート中。