海外マーケティング完全ガイド
~グローバル展開を成功に導く手法・戦略を解説~
近年のグローバル化の加速とオンライン化、情報化社会の進展により、ビジネスのグローバル展開がこれまで以上に容易になりました。しかし、世界でも稀にみる独自文化を持つ「日本」に暮らす私たちにとって、他国の言語や文化、商習慣、規制などは、日本と異なる多くのハードルになります。そのため、ビジネスをグローバル展開するには、新しく学ぶべき習慣やルールが多く存在します。
そのため、製品やサービスを複数の国や地域に展開する際には、日本のマーケティングとは異なる視点を持った優れたマーケティング戦略が必要です。
本記事では、海外マーケティングの基本概念からその重要性、メリット、目標達成のための具体的な方法についてご紹介します。
海外マーケティングとは?
海外マーケティングとは、企業が製品やサービスを国境を越えて海外の消費者に、宣伝し販売するためのマーケティング戦略を指します。
グローバル化やデジタル化の進展、さらにはソーシャルメディアの発達により、海外マーケティングは以前とは比較にならないほど容易になりました。特に海外では、消費者のデジタル化が進み、多くのケースでデジタルマーケティング施策が活用されています。
Global Marketing と Inernational Marketing の違い
日本語では「海外マーケティング」と一括りにされることが多いですが、海外では「 International Marketing 」と「Global Marketing 」2種類に分けて考えられます。それぞれの定義を見ていきましょう。
「Global Marketing」の定義
「Global Marketing」とは、世界全体を一つの市場として扱い、世界規模で統一されたマーケティング活動を指します。コスト効率やブランドの一貫性を保つために、ほぼ全ての市場でブランドに統一性を持たせる一方、マーケティング手法には柔軟性を持たせつつ、最も効果的な戦術の標準化を行います。
ナイキや IKEA、コカ・コーラ、任天堂などのブランド戦略は、国や地域によって柔軟なバランスを保ちながら、ブランドイメージ・ブランドメッセージは一貫性を担保しています。
「Inernational Marketing」の定義
「Inernational Marketing」は、海外市場でのマーケティング活動という点で、Global Marketing に似ていますが、ターゲットとなる国や地域のニーズや文化、経済状況、規制、消費者行動などに合わせて柔軟にマーケティング手法を調整していきます。
例えば、特定の国や地域に向けのパッケージやブランドカラー、ブランドメッセージ、製品機能の変更、さらにその国や地域に合わせた価格の変更を行うなどです。Global Marketing よりも柔軟で適応性に優れていますが、特定の市場動向、文化的理解、消費者行動の把握など、広範囲の市場調査が必要です。そのため、Global Marketing に比べてコストが高くなり、複雑さも増す傾向にあります。
海外マーケティングに取り組むメリット
グローバル化、デジタル技術の進化によって、人々のつながりが強まっている今、海外マーケティングの重要性はますます高まっています。企業が海外マーケティングに取り組むことで得られるメリットは、多岐に渡ります。
1.顧客基盤の拡大
国内市場に留まらず海外市場へ進出することで、企業にとって多くのチャンスが生まれます。顧客基盤が広がるだけでなく、収益源の多様化にもつながります。
2.ブランド認知の向上
グローバルマーケティングを通じて、世界中でブランドの認知度や競合優位性が向上します。
3.リスク分散
単一の国や地域に依存するリスクが軽減され、需要の低下や不足を別の市場で補うことができるため、企業の経済的な安定につながります。
4.新たなインサイトの発見
多様な国際市場に進出することで、企業は成長や新たなパートナーシップの機会に恵まれます。さらに、さまざまな文化、異なる消費者の嗜好、最新の市場動向に直面することで、革新が促され、貴重なインサイトを得ることができます。
海外マーケティングに取り組む際に考慮すべき課題
1.文化の違い
各国や地域によって文化、価値観、習慣が異なるため、日本で通用していたマーケティング手法が必ずしも通用しないことがあります。
文化の違いを理解することは、コミュニケーション戦略を形づくり、ブランドメッセージを届けるための「マーケティング戦略の要」となります。
2.言語の障壁
他の国や地域に商品を売り込む際に、非常に重要な品質管理は、グローバルにおける企業ブランディングを進めるうえで「企業の印象」を決めるとても重要なものです。
単に「翻訳されていれば良い」のではなく、現地で日常的に使用されている「母国語」が求められます。従来は「 海外マーケティング = 英語 」という認識が一般的でしたが、近年では中国・サウジアラビア・ブラジルといったBRICSの台頭にみられるように、世界の状況は大きく変化しています。
例えば、CSAResearch社の調査によると、海外顧客の 75% が「自分の言語で行われているサービスを再度利用する可能性が高く、自国語でのカスタマーケアを望む」と回答しています。さらに、同社が実施した調査「Can’t Read, Won’t Buy(読めない買わない)」では、「65%のユーザーは母国語でのコンテンツを好み、73%は母国語での製品レビューを望んでいる」と報告されています。
単に英語ができる・わかるというだけではなく、ターゲットユーザーに ” 真に響く言葉 “に変換する必要があります。
3.法律と規則
国によって法律や規制、税法、関税のルールは異なります。
例えば、シンガポールでは砂糖の多い飲料は4段階に分類され、最も低層に分類された商品は、広告が禁止されています。EUではGDPR規制により、顧客データの収集方法も規制されています。
海外マーケティングに取り掛かる前に、選択した国や地域の法律や規則を全て理解し、遵守していることを確認する必要があります。
4.通貨の影響
海外で販売を行う場合、必然的に他国の通貨での取引が発生します。今回のような急激な為替変動が生じた場合、収益に大きな影響を与えることを考慮しておく必要があります。
5.物流とサプライチェーン
複数の国や地域にわたる物理的な取引が発生する場合、物流とサプライチェーンの管理は複雑な課題が伴います。
タイムゾーンの調整や複雑な国際物流の管理、現地の支払い、通関手続き、関税などを管理する必要があります。また、戦争やテロ、自然災害などの地政学的リスクが発生した場合、サプライチェーンが途絶える可能性もあるため、さまざまなリスクを想定し、中核となる事業の継続あるいは、早期復旧を可能とるすための方法・手段を確立しておく必要があります。
万が一の地政学的リスクに備えた “プランB” を用意しておきましょう。
海外マーケティングに取り組むための方法
海外向けマーケティングを成功させる戦略を策定するには、多面的なアプローチが必要となります。海外の市場で成功を収めるための方法についてみていきましょう。
1.徹底的な市場調査
海外マーケティング戦略の基盤は徹底した「市場調査」にあります。
新しい市場に進出する前に、その国の文化、人口統計、経済状況、法規制、地政学的リスクなど徹底した事前調査を実施しましょう。
消費者の行動、好みの傾向、支出習慣なども調査を行い、参入障壁を分析し、現状の課題を特定します。
競合相手を観察し、現地の消費者の関心を理解することも重要です。SWOT分析を実施して、内部リソースを整理し、海外マーケティングに取り組むことに影響を与える可能性のある外部要因も洗い出しましょう。
2. STP分析を実施する
STP分析とは、セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング(Segmmentation・Targeting・Positioning)の3つの頭文字からつけられた分析方法です。STP分析では新しい市場での製品やサービスの立ち位置を明確にし、マーケティング戦略を策定するための有効なフレームワークです。
セグメンテーション:人口動態変数や地理的変数・行動変数、心理的変数に基づいて、市場を細分化するプロセスです。セグメンテーションを通じて、どのような顧客が、どれほど存在するかを定量的に観測することができます。明確なニーズを持つオーディエンスに合わせてマーケティング戦略などを調整します。
ターゲティング:細分化された市場から、収益性や自社のブランド戦略との整合性に基づいて、市場を選択します。
ポジショニング:選択した市場に対して、競合との関係性や自社の優位性などを明確にするプロセスです。すべてのマーケティングチャネルで一貫したメッセージを確立するために、ターゲットユーザーの価値観やニーズに合致するブランドポジショニングステートメントを確立します。
3.ローカライズされた、マーケティングミックスを構築する
1、2を通して策定された基本戦略を元に、マーケティング戦略を実現するための具体的な方法や戦術を決定します。国や地域ごとに柔軟性と戦略性を兼ね備えたマーケティングミックスを構築し、「製品・価格・適切な流通チャネル・プロモーション」を確立します。
4.マーケティングチャンネルを選択する
新聞や雑誌、テレビ、ラジオ、印刷広告、展示会など、従来のマーケティング手法とデジタル広告やSNS、動画マーケティングなどデジタルマーケティングチャネルを組み合わせ、最適なチャネルを選択します。
マーケティングチャネルは、国・企業形態・達成したい目標・ターゲット・予算・リソースなどによって最適なアプローチ方法は異なります。自社の戦略に最適なチャネルを選択することで、海外マーケットであっても、顧客との良好な関係の構築・新規ユーザーへのリーチなど、多面的なアプローチを実現することができます。
2024 年7月現在、世界のインターネットユーザーは54億5千万人に達し、世界人口の67.1%を占めています。また、ソーシャルメディアの利用率も世界で50億人に達しており、2028年までに60億人に到達すると見込まれています。最適なデジタルマーケティングチャネルを選択するためには、こちらのブログをご参照ください。→ 「デジタルチャネルの選び方」
5.現地チーム・パートナーシップを確立する
海外市場で成功を収めるためには、現地チームとのコミュニケーションやパートナーシップを確立することが重要です。
企業が犯しがちな誤りの一つに、非常に有能なローカルスタッフを雇用したにも関わらず、「本社が現地事業の戦略を策定し、現地企業はそのプランを実行するだけ」というものがあります。ハーバード・ビジネス・レビューの記事でも、「企業が犯す最大の間違いの一つは、現地のチームの意見に耳を傾けないこと」と述べられています。
現地の従業員は、地域特有の文化や消費者行動、商習慣、製品、競合環境を深く理解しています。彼らの意見を尊重し、積極的に参加させることで、より実現的で効果的なマーケティング戦略を策定することが可能となります。
6.パフォーマンス測定と最適化
グローバル市場は常に変化し続けています。企業が成功を維持するためには、常に状況を監視し、変化に対応し続けることが求められます。
海外マーケティングを成功させるためには、継続的なパフォーマンスの監視と最適化が不可欠です。KPIを設定し、キャンペーンの効果を測定することで、ROIを評価し、改善が必要な領域を特定します。さらに、顧客からのフィードバック、トレンドの監視、競合他社の動向、最新の市場動向の把握は、戦略を迅速に最適化させるために欠かせません。
データに基づく戦略的な意思決定を行うことで、グローバル市場での持続可能な成長と収益性を達成できます。
成功した海外マーケティング戦略事例
この段落では、グローバル企業が実際に成功した”伝説”の海外マーケティング戦略の事例をご紹介します。
コカ・コーラ「Share a Coke」
コカ・コーラの象徴的なロゴと特徴的な赤色は、世界中で認識されています。誰もが知っているこのロゴを、個人名に置き換えるという「Share a Coke」キャンペーンは、2011年にオーストラリアでテスト的に実施されると、瞬く間に世界中で大ブームを巻き起こしました。
屋外広告、テレビコマーシャル、印刷広告では、人々が愛する人とコカ・コーラボトルを共有する様子が紹介されました。また、ソーシャルメディアでは、「#ShareACoke」のハッシュタグと共にコカ・コーラボトルを共有することを促し、SNS上で写真コンテストやイベントを開催。専用のウェブサイトも開設。オリジナルのコカ・コーラボトルが作成できるように、主要都市にポップアップショップを次々に設置しました。
一見シンプルに見える「Share a Coke」キャンペーンは、消費者間の感情的な結びつきを育み、人間心理を突く絶妙なパーソナライゼーションと、巧みなソーシャルメディアキャンペーンを融合させることで、世界中の消費者の共感を呼びました。「Share a Coke」キャンペーンは、マーケティングの歴史に「伝説のキャンペーン」として刻まれています。
Apple – 標準化とローカリゼーション
Appleは、1997年の創業以来、世界各国でローカライズされたキャンペーンから店内体験まで、グローバルな思考とローカライゼーションを体現しています。
Appleでは、シンプルさとエレガンスに重点を置く一方で、独占欲を刺激し、憧れ、希望を醸成することに重点を置いています。
同社の「Mac vs. Ordinary PC」、「Think Different」や「Behind the Mac」、「Creativity goes on 」などさまざまなキャンペーンは、テクノロジーと情熱、創造性、感動的なストーリーにスポットライトを当てています。
競合他社が技術仕様や機能を消費者にアプローチする一方で、消費者の感情を刺激し、共感を呼び、感情的な繋がりを構築していることがわかります。また、各キャンペーンは国や地域によって、絶妙にローカライズされています。
<2006年に公開された動画「Microsoft Re-Designs the iPod Packaging/マイクロソフトがiPodを再度デザインしたら?」は、マイクロソフト社が作成した動画です。「シンプルであることは、複雑であることよりも難しい」と言った、スティーブジョブズ氏の言葉は、現在でもAppleに受け継がれているマーケティング戦略の一つになっています。
インフォキュービック・ジャパンのご支援事例
インフォキュービック・ジャパンでご支援させていただいた海外マーケティングご支援事例をご紹介します。
旭化成株式会社様
要件定義コンサルテーション、グローバルサイト制作、リスティング広告(英語・日本語)
海外マーケットの重要性が高まり、数年前から海外向けデジタルマーケティングの実績が豊富なパートナーを探して、対策を立てていこうと計画していた旭化成様。インターネット検索による情報収集やグループ企業様からの推薦によってインフォキュービック・ジャパンを知ると、直接お問い合わせをいただき、展示会でのお声掛けや旭化成様オフィスでのご提案を経て、パートナーとして選んでいただきました。
1事業部から始まったリスティング広告の運用は3事業部に横展開し、アメリカ、韓国、インド、タイ、日本国内に広告を配信を実施。定例会を旭化成様と弊社の情報交換の場と位置付けて、相互理解を深めることでコンバージョンを意識した運用を行いました。 グローバルサイト制作は、ターゲットとなる海外ネイティブユーザーにとって自然なインターフェスとなるよう留意したうえ、営業ツールとして有効に活用できるサイト制作を目指した。
旭化成株式会社様の詳しい事例記事はこちらからご覧いただけます。
黒木碁石店株式会社様
LP制作(英語・中国語)、リスティング広告(英語)、Facebook広告(英語)
「インターネットを通して、世界中の囲碁愛好者に高品質な棋具を届けたい」という熱い想いのもと、まだ日本のインターネット普及率が高くなかった1999年に、「碁石」と「棋具」を扱うECサイト(英語)を自社で制作した黒木碁石店様。その後は社内でウェブサイトの運営を手掛けられていたが、創業100年の節目となる2016年、ブランドの刷新を行うのにともない、「今後は海外市場に本格的に進出していきたい」とのご相談をいただき、日本の伝統工芸品たる「蛤(ハマグリ)碁石」の情報をしっかりと世界中に発信した上で、海外向けのデジタルマーケティングを駆使して世界中に販売を促進していく、前例のないグローバルプロジェクトがスタート。
海外向けリスティング広告については、出稿開始から徐々に北米とEUからの反応が高まり、年々海外の売り上げの比率が右肩上がりに変化していった。そして元々は、半々程度だった国内/海外売上比率が、プロジェクト開始後の4年間で国内2:海外8という比率に。また、月次レポーティングでは詳細な「データ概況などの分析」も含めてご案内することで、「海外のマーケット分析・グローバルサイト運営」などに活用いただけるよう配慮している。
黒木碁石店株式会社様の詳しい事例記事はこちらからご覧いただけます。
さいごに
海外マーケティングに取り組むことで、企業は新しい市場を開拓し、グローバルな成長を目指すことができます。海外マーケティングを成功させるためには、戦略的な計画と市場調査、ローカライズを通じて、消費者とのつながりを強固にし、グローバルな成長を目指しましょう。
海外デジタルマーケティングにご興味がありましたら、お気軽にご相談ください。
吉田 真帆 マーケティング部 プランナー
コンテンツ・SNS・メールマーケティングを統括しています。 オーストラリア永住権を取得したにも関わらず、思いもよらず日本に帰国。日本9年を経て、現在はシンガポールからフルリモート中。