新しい世界の常識「ESGマーケティング」とは?
~未来を見据えた海外マーケティング戦略~
最近新聞やニュースでよく目にする「ESG」という言葉を目にするようになってきました。
2021年2月15日、日経平均株価が1990年8月以来、3万円の大台を回復し約30年半ぶりの高値を付けた株式市場ですが、2018年の段階で、全世界の投資市場に出回っている金額の3分の1、30.7兆ドルが「ESG投資」に充てられていると言われています。(内閣官房:実行計画)
企業の業績、利益だけではなく、企業が社会に与える「価値」が株価に現れてくる時代となり、同じ利益をあげる会社でもESG経営をしている企業が選ばれるようになってきました。
今回は、今後グローバル企業や組織にとって、避けては通れない「ESG」の理解を改めて明確化すると共に、ESGを意識したマーケティングをグローバルで実践する日本企業についてご紹介します。
「ESG」とは?
「ESG」とは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字をとって作られた言葉です。その定義は、2006年当時国連事務総長であったAnnan Kofi氏 が金融機関に向けて提唱した「投資家が取るべき行動原則(PRI)」です。簡単まとめると「金融機関などが投資先を決定するときは、売上高や財務指標だけでなく、環境・社会・企業統治にも配慮すべきだ。」という世界共通のガイドラインとして作成され、欧米を中心に広く知れ渡るようになりました。
つまり「企業活動において環境(Environment)に負荷がかかっていたり、人間の健康に悪影響を及ぼす場合や、社会・地域(Social)、労働環境や多様性にマイナスの影響を与えていると、短期的には利益が出ている良い企業に見える場合であっても、長期的に俯瞰してみた時に、世界全体に悪影響を与えてしまう。そのために企業統治(Governance)、企業運営や権利保護、情報開示といった企業統治活動を評価し、社会に悪影響を与える企業への投資はやめましょう。」という世界共通の認識を持つための指標となっています。また、2008年のリーマン・ショックから、欧米を中心とした短期的な利益を目指す投資(市場原理主義)への批判が高まったこともあり、世界の多くの投資機関を中心に投資の指標の一つとして企業を形作るESGという要素が世界の「企業価値を測る指標」の一つとしてグローバルスタンダードへとなっていきました。
また、ESGと類似しているのが「SDGs(Sustainable Development Goals)」です。SDGsは、「持続可能な開発目標」と訳され、2015年に国連サミットで採択された「国連加盟国(193カ国)が2016年~2030年の間で持続可能な世界を実現・達成するために掲げた17つの開発目標」です。
つまり、「ESG」は投資家からみた投資戦略であり、「SDGs」は今後世界中の社会・企業が目指すありよう/ビジョンと理解してよいでしょう。
なぜ「ESG / SDGs」が重要なのか?
2001年以降生まれの世代、ジェネレーションZや1981年以降に生まれ2000年以降に成人を迎えたミレニアル世代(ジェネレーションY)は、現在そしてこれからの世界経済の中枢を担っていきます。そうした若い世代は「環境問題や社会的差別などへの関心が強い」傾向がみられます。また、今後30年で世界の30兆ドルを超える資産が団塊世代から若い世代に移るとされおり、ミレニアル世代からジェネレーションXの高い関心は重要なキーポイントとなるでしょう。
銀行世界大手のモルガン・スタンレーが実施した調査によれば、ミレニアル世代の85%がESG投資に高い関心を示しています。BoF&McKinseyの調査レポートによれば、全世界のミレニアル世代の60%は、社会的責任に向き合い、取り組むブランドに投資したいと回答しています。また、PwCが下記グラフが示すようにヨーロッパにおけるESG投資は年々拡大しており、ヨーロッパの資産は2025年までに、最大で57%がESG投資で構成されると予測も出されています。
欧州連合は今後7年間で約5,500億ユーロをグリーンプロジェクトに投入するとみられており、米国ジョーバイデン大統領は気候変動への取り組みに2兆米ドルを費やすことを約束しましています。また、世界の二酸化炭素排出量の3分の1を占める日本・韓国・中国は、日本・韓国は2050年までに、中国は2060年までにCO2排出量ゼロを目指すと宣言しており、今後ますます持続可能な社会実現に向けた企業の取り組みが重要視されていくでしょう。
<PwC:Yearly net flows of European ESG vs non-ESG funds>
今後、ESGを中心に考える世界のステークホルダーに向けて、どのように自社のESGへの取り組みを変化させ、語り、伝えるか。この「ESGマーケティング」ともいえる試みは、グローバルな投資を呼び込むとともに、海外市場でのビジネスプレゼンスを高めるために、世界市場に進出する日本企業にとって「世界から選ばれる企業」になるために、避けては通れない重要なポイントといえるでしょう。
「ESG」を実践する世界の企業
では、どのようにして「新時代のステークホルダー」の期待に応えるESGマーケティングが可能になるのでしょうか?具体的に「ESGを実践する企業」をご紹介します。
2021年1月に開催されたダボス会議(今年はコロナの影響で、5月に延期されている代わりにオンラインで「ダボス・アジェンダ」が開催され、世界中の8,080社の中から「世界で最も持続可能な企業100社/Global 100 Most Sustainable Corporations in the World (Global 100 Index)」が発表されました。
- シュナイダーエレクトリック(フランス) スコア:83.2%
- オーステッド(デンマーク) スコア:82.7%
- ブラジル銀行(ブラジル) スコア:81.7%
- ネステ/Neste Oyj(フィンランド) スコア:80.7%
- スタンテック(カナダ) スコア:80.5%
- マコーミック(アメリカ) スコア:79.3%
- ケリング(フランス) スコア:78.4%
- メッツ:オートテック(フィンランド) スコア:78.4%
- アメリカン・ウォーター・ワークス(アメリカ) スコア:77.1%
- カナディアン・ナショナル鉄道(カナダ) スコア77.1%
<Global 100 Most Sustainable Corporations in the World (Global 100 Index)>
世界で評価される日本企業の取り組み
「世界で最も持続可能な企業100社」の中で日本企業は5社が優れたグローバル企業に選ばれました。では、ランクインしていた企業はどのようなことを実践しマーケティング活動をおこなっているのでしょうか。
エーザイ(製薬会社) スコア:74.3%
エーザイの海外向けウェブサイトページには、「Sustainability/持続可能性」専用ページを設けています。エーザイは「ESG」への取り組みを「非財務的価値」と位置づけ、持続可能な企業活動、雇用、社会との関係性、環境活動など、企業の姿勢と活動を世界へ的確に発信し続けています。
<エーザイ:海外向けウェブサイト>
また、海外向けにエーザイの行っている持続可能な企業の取り組みについて、Twitterの専門アカウントでの情報発信も行っています。
In MDA, residents take medicines necessary for LF elimination.
MDA took place aiming to cover 3.5 million residents at risk of LF infection.@MOH_Kenya @matendechero @IHS_health pic.twitter.com/EFXi94qmwA— Eisai_sustainability (@Eisai_SDGs) January 8, 2021
ESGへの取り組みに特化したミッションステートメントを作成し、一貫したメッセージングは強い指向性を生み、競合他社との明確な差別化を図る手段になります。自社の価値観や目標と深く結びつく問題であり、そのトピックにおいてリーダーとして地位を確立し、企業のメッセージを広く浸透させることができるのです。
シスメックス(医療機器) スコア:71.4%
シスメックスの海外向けウェブサイトページにも「Sustainability/持続可能性」専用のページを設け、企業の姿勢や取り組みについて的確に情報発信を行っています。
働き方の改善やダイバーシティ化、社会貢献や環境活動など、企業活動はもちろんのこと、ESGへの取り組みや実行報告をビジネスモデルの中核に組み込み、非常に豊富なコンテンツを作成、正確に情報発信することで見事にブランド価値を高めています。
<Sysmex: Sustinability>
コニカミノルタ(電機) スコア:68.5%
コニカミノルタは「新しい価値の創造」を経営理念に掲げ、持続可能な社会のために、成長を続けながら、社会が抱える課題解決の貢献する企業と社会の価値を生み出す取り組みを行っています。
コニカミノルタのESGは、中⻑期的に企業価値を向上させ、持続的な成⻑につなげるための5つの環境(E)と社会(S)に関するマテリアリティとガバナンス(G)から成り⽴っています。また動画を活用したSDGs取り組み情報発信も行っています。
コニカミノルタでは、ウェブサイトを情報発信の重要ツールとして、様々な情報発信を海外に向けて行っています。
企業のESGへの積極的な取り組みは高く評価され、価値を認められた企業は市場から評価される流れが確立しつつあります。これから企業がグローバルマーケティング戦略で念頭におくべきは、まさにこのESGです。ESGに関連した具体的な評判への影響を十分に考慮し、自社のブランドを保護・強化する新たな施策が必要とされています。
まとめ
今後の10年間で、世界は持続可能な未来に向けて移行するという課題に直面しており、企業のESGへの取り組みをグローバルマーケティング戦略に取り入れることは必須施策となるでしょう。ビジネスの成長と共に、持続可能性への取り組みがない企業はグローバル市場では新しい市場機会へのアクセスを失うリスクがあります。
今後、企業側はますます情報発信の強化を迫られています。企業の業績とは別の企業の在り方やビジョンなど、いわゆる「非財務情報」の情報発信は、短期的な取り組みでは伝わりにくく、困難となります。ビジネス戦略とビジョンを持続可能な開発目標とに合わせることで、革新的な変化を推進し、グローバル市場において長期的なブランドを構築することが新しい顧客や投資家を惹きつけることに繋がるでしょう。
吉田 真帆 マーケティング部 プランナー
コンテンツ・SNS・メールマーケティングを統括しています。 オーストラリア永住権を取得したにも関わらず、思いもよらず日本に帰国。日本9年を経て、現在はシンガポールからフルリモート中。