「宇宙」を舞台にする世界の企業
~宇宙ビジネス最前線~
「月、その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用若くは占領又はその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とならない」
これは、昭和42年(1967年)に公布された宇宙空間における国家活動を律するために国際連合が定めた「宇宙条約」の一文です。
最近、「宇宙」に関する話題が多くなってきたと感じている方も多いのではないでしょうか?
2019年12月アメリカでは「アメリカ宇宙軍(U.S. Space Force)」が正式に誕生し、それに続いて日本でも2020年5月に宇宙作戦部隊が新設され、2022年には「宇宙作戦群」として本格的に始動しています。その他にもオーストラリアも2022年に「宇宙部門」の創設を表明。フランス宇宙軍は既に宇宙空間で初めての実践演習まで行っています。
この話を聞くと「いよいよ宇宙人が地球に攻め込んでくるのか?」と不安になってしまう方もいるかもしれませんが、実は、いま宇宙産業が次の成長市場として非常に注目を集めています 。
今回の記事は、まさにブルーオーシャンともいえる「宇宙」をマーケットとする世界・日本の企業をご紹介します。
地上から宇宙へ、移り変わるビジネス市場
「宇宙なんて私たちの生活に関係ない。」と思う方もいるかもしれませんが、デジタル化社会を生きる私たちの生活が衛星データに依存していることはあまり知られていません。フランス宇宙軍の軍事演習も、自国の人工衛星を守るためのもの。
インターネットが生活インフラになったデータ駆動型社会に生活している私たちは、「宇宙空間」とは切っても切れない関係にあるのです。
2016年、日本でも宇宙活動法が策定され、2017年には「宇宙産業ビジョン 2030」が発表されました。これまで参入障壁が高かった宇宙産業を国の成長産業の一つとして、民間企業の参入など宇宙ビジネスを促進する狙いがあるようです。いよいよ「宇宙ビジネス」が民間企業に対しても開かれてきたといっても過言ではありません。
モルガン・スタンレーの予測によると、2019年には 37兆円規模だったものが 2030年には 70兆円、2050年には 100兆~ 300兆円規模になると想定されています。これは自動車産業に迫る大きな市場規模です。
イーロン・マスク氏 率いる SpaceX 社は、民間初の宇宙船「クルードラゴン」で、国際宇宙ステーションへと飛び立ちました(日本人宇宙飛行士、野口聡一さんも搭乗していましたね)。 Amazon の創始者ジェフ・ベゾス 氏も自身が設立した宇宙開発企業ブルー・オリジン社初の有人宇宙飛行に参加すると表明すると共に、同席できる一座席の値段が 30億円で落札され大きな話題となりました。いま、世界中の多くの企業が「宇宙」を新しい市場として捉えているのです。
宇宙をマーケットとする世界の企業
SpaceX
2002 年にイーロン・マスク氏によって設立された宇宙開発企業です。同社は宇宙技術の革新を通じて、人類を「Multiplanetary Species(多惑星人種)」にすることを目指し、再利用可能なロケットや宇宙船の開発、物質輸送、有人宇宙旅行などを提供しています。
また、全世界をカバーした高速インターネットを提供するスターリンクや、火星移住計画を視野に入れた大型宇宙船の開発も行っています。SpaceXはNASA主導のアルテミス計画にも参画しています。
ASTROBOTIC
2007年に設立されたアメリカのペンシルベニア州に拠点を置く企業です。
「月面への物資輸送」という、宇宙ロジスティクスシステムの構築を目指す世界最大の民間企業です。月面および惑星ミッション向けの宇宙ロボティクス技術の開発を専門としており、月面着陸船やローバーの設計、製造を手掛けています。
NASAや国防総省、商業企業などから 60 以上の契約を受注しており、さまざまなプロジェクトに参画しています。
Space Know
2013年に設立された人口衛星データを活用した分析プラットフォームを企業や政府に提供しています。人口知能を駆使して衛星画像を解析し、独自のアルゴリズムを用いて、複雑なデータから価値のある情報を抽出し、地球規模でのリアルタイム監視を可能とし、迅速なデータ駆動型意思決定が行えるよう支援しています。
国防はもちろんですが、インテリジェンス、環境モニタリング、建設などの分野でソリューションを提供しています。衛星データによる「ヨーロッパ地域における新型コロナウィルスの第二波の分析」などを行い話題になりました。
Rocket Lab
ニュージーランド発のロケットベンチャー企業である Roket Lab は、宇宙船の設計・製造、衛星コンポーネント、フライトソフトウェアなどを提供する宇宙関連企業です。低コストで迅速な小型衛星の打ち上げに特化しており、同社保有の小型ロケットは、現在までに197基の衛星を軌道に投入するなど様々なミッションを成功させています。
また、商業および政府の衛星運用者向けに専用のライドシェアオプションを提供しています。また、再使用可能な中型ロケットを開発中で、2025 年以降を目途に初の打ち上げを予定しています。今後、中型ロケットの開発を中心に、SpaceX のライバルとなるとも言われている企業です。
日本発の宇宙ベンチャー企業
まだ数は少ないですが、日本のベンチャー企業も世界を舞台に活躍しています。
株式会社アストロスケールホールディングス(Astroscale)
2013年に創業以来、宇宙産業の大きな課題であるスペースデブリ(宇宙ゴミ)の除去事業の開発に取り組む、世界で唯一の民間企業です。シンガポールで設立されましたが、日本の東京に本社を置き、英国・米国・イスラエルなど、グローバルに事業を展開しています。
2021年3月、民間企業として世界初のデブリ除去衛星の打ち上げに成功している同社は、宇宙空間の持続可能性を確保するために、人工衛星の寿命延長や衛星の運用終了時に安全に衛星を処理するサービスなど、さまざまなサービスを提供しています。
株式会社 ALE
株式会社エールは、「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」をミッションに掲げ、世界初の衛星を用いた「人口流れ星」の開発を行う企業です。同社は、科学とエンターテイメントの融合を掲げ、宇宙エンターテイメント事業「 Sky Canvas 」や衛星を活用した大気データの解析などの研究開発を行っています。
人工流れ星の提供を通じて人々の好奇心を育み、科学と人類の持続的な発展に寄与することを目指しています。
株式会社 ispace
2010年に設立されたispace(アイスペース)は、日本の宇宙ベンチャー企業で、民間による月面着陸船や探査車を開発している企業です。月資源を活用し宇宙インフラを構築することで、人類の生活圏を宇宙に広げていくことを目標にしています。
2022 年 12 月 11 日には SpaceXのFalcon 9 を使用し、同社初となるランダーの打ち上げを成功させ、2025年1月、2026年、2027 年にも打ち上げを行う予定となっています。
さいごに
いかがでしたでしょうか? 今をときめく宇宙産業。
米国では既に1,000以上の宇宙ベンチャーが存在し、GAFAをはじめとするテックジャイアント達は既に宇宙産業へと参入を進めています。宇宙産業の進展が新たなテクノロジーや市場を生み出し、私たちの生活やビジネス環境を大きく変える可能性があるため、こうしたメガトレンドを念頭に置いておくことはグローバルに事業を展開する上で重要です。
今後テクノロジーの進化と共に、宇宙ビジネスのコストも飛躍的に下がることで、新しいビジネスチャンスが次々生まれてくることが予想されます。今後も地球規模のパンデミックや世界規模の自然災害、グレートリセットなど私たちが乗り越えなくていはいけないこれらの事象を通じて、そこから生まれる新たな市場やニーズに対応する準備を進めることは、競争力を維持する上で非常に重要です。
「産業構造の変化」という大きなトレンドを背に、宇宙へとビジネスチャンスが拡がりつつあるなかで、宇宙産業が切り拓く未来を視野に入れながら、私たちもまた、持続可能で革新的な事業のあり方を模索し、地球規模から宇宙規模へと視点を広げる必要がある時代が到来しているのかもしれません。
吉田 真帆 マーケティング部 プランナー
コンテンツ・SNS・メールマーケティングを統括しています。 オーストラリア永住権を取得したにも関わらず、思いもよらず日本に帰国。日本9年を経て、現在はシンガポールからフルリモート中。