持続可能なデジタルマーケティング戦略
~デジタル化が与える環境負荷を考察する~
「デジタルテクノロジーを利用することで排出される二酸化炭素量は、航空業界の2倍以上」
17世紀後半の産業革命以、たった250年という短期間に激変した私たちの生活。1991年に最初のウェブページが作成・公開されてから、約30年で世界のインターネットユーザーは51億人を突破しました。また、新型コロナがもたらした大きな変化の1つ、社会全体の「デジタル化」により、マーケティング領域においても世界のデジタル広告市場の拡大を大幅に加速させました。
そして、ここ数年、世界中のあらゆる場面で取り上げられている「持続可能性(サスティナビリティ)」。温室効果ガス濃度安定化を目的とする「COP(国連気候変動枠組条約」をはじめ、金融機関に向け世界共通ガイドライン「ESG」の制定、国連サミットで採択された「SDGs」などが指し示すように、企業活動において「単に利益が拡大すればよい」という時代から、地球環境を含めた企業の「持続可能性」が求められる動きは年々加速しています。
しかし、日本国内を見渡してみると、デジタルテクノロジー企業は「本当に地球環境に優しいのか」という議論は、まだ積極的に行われていないように見受けられます。
そこで今回は、企業活動を継続するにあたり、「地球環境」と「経済」を同時に解決することが求められるであろう今後を見据え、デジタル化が環境に与える影響とともに「持続可能なデジタルマーケティング戦略とは何か?」を考えてみます。
デジタル化によって増加するエネルギー消費量
大量のトラフィックを管理する巨大データセンター、国境を越えて気軽に話せるオンライン通話、無料で利用できるストーレージスペース、24時間/365日送受信可能なEメール、的確なターゲットにアプローチできる広告プラットフォームやソーシャルメディアプラットフォームなど、現代を生きる私たちの業務には常に膨大な「エネルギー消費」を必要とします。
デジタルマーケティングは従来の印刷媒体を比較すると、環境負荷の軽減に貢献していることは間違いありません。しかし、ブログ冒頭でお伝えしましたが、フランスのシンクタンクのシフトプロジェクトが発表した統計によると、デジタルテクノロジーによって発生する温室効果ガス排出量は全体の4%を占めており、世界の航空業界の約2倍(!)。また、その数値は2025年までに2倍になると言われています。また、ICTの急速な拡大に伴いデジタルテクノロジーによるエネルギー消費量は年間9%ずつ増加しています。
物質的消費が目に見えにくいデジタルマーケティングですが、「地球温暖化の原因となる二酸化炭素を多く排出している」と認識する必要があります。
成長するサスティナブル市場・変化する人々の欲求
現在、世界のサスティナブル市場はかつてないほどに急成長を見せています。
NYU Stern Centerの最新の調査レポートによると、2014年~2018年のサスティナブル製品は、従来の既存製品と比較して7.1倍速く成長がみられました。今後も市場はさらに拡大すると予測されており、2030年には16兆円(140.5Billon)規模へと成長すると見込まれています。
また、高所得者・ミレニアル世代・都市部居住者・大学教育を受けた消費者は、サスティナビリティ市場の製品を購入する傾向が見られ、さらに中所得者・X世代の消費者はサスティナビリティの売上に高い割合で貢献しているという傾向が見られました。
デジタルマーケティング施策はパッケージ商品ではありません。しかし、持続可能性を重要視する人々の意識は年々高まっており、私たちマーケターはこうしたトレンドをを把握しておく必要があります。
実際に、2019年にHotwireが実施した大規模調査では、世界のインターネットユーザーの47%が「価値観の違いによってブランドや製品を切り替えた」と回答しています。そしてその理由は「環境破壊」「気候変動」「透明性の欠如」など「持続可能性」に関連した理由が大半を占めていました。
< eMarketer : Internet User Worldwide Who Have Switched a Product/Service >
人々の「消費」はただ単純に「優れた商品やサービスを手に入れたい」というだけではなく、企業やブランドとの「人間的な繋がり」を求め、自らの購買行動が自分の価値観やアイデンティティを基準に考える傾向がますます強まっています。
より多くの消費者が、同じ価値観を持つブランドや企業と繋がり、取捨選択する時代。私たち企業マーケターは消費者の価値観の高まりに根差した「持続可能なデジタルマーケティング」を実行する必要があります。
「持続可能なデジタルマーケティング戦略」を実行するために
ミッションを明確にする
持続可能なデジタルマーケティング戦略を実施するためには、まず「なぜそれを実施するのか(WHY)」を明確にし、十分に理解する必要があります。
デジタルマーケティングをより持続可能な施策にシフトしていくためには、企業の意思決定者と一緒に全体的な戦略を立てましょう。会社全体として「何を支持したいのか」「どのような方向性を企業として目指していくのか」を明確にすることで、適切な戦略がおのずと見えてくるはずです。
経営者や重要なポジションに就いている意思決定者は、企業利益を最優先する傾向にありますが「企業の持続可能性と収益性」を議論をする必要があります。経営者自身や重要な意思決定者が「持続可能性のメリット」を十分に理解していない場合は、持続可能性について教育する必要もあるでしょう。持続可能性についての教育は一過性のものではなく、継続的な取組である必要があります。常に情報をアップデートし、簡素化し、共有を行いましょう。
ITインフラを整備する
近年、世界中で「グリーンIT(Green Computing)」の動きが本格化しており、グリーンITの取り組みに準拠したグリーンテック製品を使用することで、エネルギーの使用量を減らし、廃棄物を減らし、持続可能性を促進することができます。
グリーンテック製品はパソコンや照明の消費電力を監視したり、忘れがちな電化製品のスイッチを切るための自動制御装置など、エネルギー消費を抑制するための製品です。暖房やエアコンにも同様の機能を持たせることができます。その他、大容量ファイルの転送には送信後自動でデータが削除されるソフトウェアを導入したり、ドライブやDropboxに保存すべきでないファイルについては、ローカルストレージを選択したり、電子メールの添付ファイルのサイズを制限するなど、企業全体のITインフラの整備を行うことでグリーンITを実現することができます。
パートナーシップを構築する
「持続可能な取り組み」は一組織だけの問題ではありません。より良い環境を目指すという使命やビジョンが一致する企業とパートナーシップを積極的に構築する必要があります。
米国の小売業界では、長年のライバル関係であったウォルマートとターゲットが主導し、「持続可能性」に関する共通の定義や規制や共通の製品評価システムを構築しました。
「3R」を実施する
3Rとは「Reduce(削減)・Reuse(再利用)・Recycle(再資源化)」の3つのRの総称です。
デジタルキャンペーンを配信する場合、ファイルサイズが大きくなるとエネルギー消費が大きくなり、二酸化炭素排出量に影響してしまいます。カスタムフォントをブラウザやデバイスでサポートされている既存のフォントを活用することで、広告キャンペーンによって排出される二酸化炭素排出量を最大で2%軽減することができると言われています。
デジタル広告の表示サイズは実際にはかなり小さくなるので、高解像度にする必要もありません。適切にファイルサイズを圧縮することで、ロード時間を減らすことができ、二酸化炭素排出量を削減に繋がります。新しいクリエイティブ制作には、既に活用したクリエイティブを一部再利用することができるか議論してみましょう。
ブランドメッセージを発信する
ブランドメッセージとして情報を発信することは、消費者に影響を与える最も強力なツールの1つです。マーケターはブランディングや広告戦略を、より「持続可能性を意識したメッセージ」にシフトしていくという重要な役割を担っています。企業の実施する取り組みや進捗状況、ビジネスにおいての持続可能性を一貫して語ることで「持続可能性がブランドにとっての優先事項であること」をユーザーに示すことができます。
しかし、メッセージは単にグリーンウォッシュ(環境に配慮していると見せかけること)であってはいけません。実際には何も取り組んでいないにもかかわらず、自社の製品やサービスが倫理的で持続可能であるかのような印象を与えてても、何もメリットはありません。まずは、しっかりと企業全体の方向性を明確にし、環境に配慮した取り組みを実施した後で、明確なブランドメッセージとして発信しましょう。
まとめ
世界の有識者によって設立されたローマ・クラブは、1972年に発表した研究報告書「成長の限界」のなかで、人類の経済活動と地球環境の未来について警告していました。今後世界は持続可能な未来へとシフトするという課題に直面しており、企業の持続可能な取り組みをグローバルマーケティング戦略に取り入れることは必須施策となるでしょう。
ビジネスの成長と共に、持続可能性への取り組みがない企業はグローバル市場では新しい市場機会へのアクセスを失うリスクさえあります。ビジネス戦略とビジョンを持続可能性に合わせることで、革新的な変化を推進し、グローバル市場において長期的なブランドを構築することが新しい顧客を惹きつけることに繋がるのではないでしょうか?
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吉田 真帆 マーケティング部 プランナー
コンテンツ・SNS・メールマーケティングを統括しています。 オーストラリア永住権を取得したにも関わらず、思いもよらず日本に帰国。日本9年を経て、現在はシンガポールからフルリモート中。