「広告ブロッカー」についてマーケターが知るべき最新動向と対策
米国をはじめとするデジタル先進国では、人々は毎日の生活の中で一日で4,000~10,000個ものあらゆる広告にさらされていると言われています。そして、広告と共に生活している現代社会において、(マーケターにとって皮肉にも…)インターネット上で最も人気のあるツールの一つが「広告ブロッカー」です。
現在、世界中のインターネットユーザーの37%以上(16歳から64歳)が広告ブロッカーを使用しており、最新のブラウザには最初からブロッカーがインストールされているものも多くあります。
近年では、YouTubeが広告ブロッカーを使用しているユーザーに対して、動画が再生できなくなる措置を取るなど話題に事欠かない広告業界。今回は、マーケターが知っておきたい広告ブロッカーに関する海外の最新動向や広告ブロッカーに対処するためのヒントなどを詳しくご紹介していきます。
目次
- 広告ブロッカー(Ad Blocker)とは?
- ユーザーが広告ブロッカーを利用する理由
- 広告ブロッカーが広告主に与える影響
- 広告ブロッカーを巡る世界の動向
- 広告ブロッカーについての統計データ
- 広告ブロッカーを攻略する対策
- さいごに
広告ブロッカー(Ad Blocker)とは?
広告ブロッカーとは、消費者がデジタルチャネルで広告を削除するための拡張機能として追加するソフトウェアの一種で、広告コンテンツを識別し、ウェブサイト上に広告が表示されないように機能します。これには、デスクトップやモバイルはもちろんのこと、CCTVなども含まれます。
広告ブロッカーを使用すると、迷惑な広告を排除することで、ウェブサイトの読み込み速度が速まり、マルウェアやそのほかのセキュリティの脅威のリスクからも軽減します。そのため、近年広告ブロッカーの使用は急増しており、広告収入に依存するプラットフォームにとって重大な課題の一つとなっています。
ユーザーが広告ブロッカーを利用する理由
広告ブロッカーを利用する主な理由は、「広告が多すぎる」!
広告ブロッカーを利用している16歳から64歳までのインターネットユーザーを対象にしたDatareportalの調査によると、「広告ブロッカーを使用する理由」は以下の通りです。
- 広告が多すぎる ‐ 61.5%
- 広告が邪魔になる ‐ 53.8%
- プライバシーを守りたい ‐ 39.9%
- 自分に関係のない広告 ‐ 39.2%
- 不適切なコンテンツが表示されるのを避けたい ‐ 38.1%
- 端末のパフォーマンスを維持したい ‐ 32.1%
これらの理由に基づくと、インターネットを利用している際に、自分の関心事とは関連性のないものが広告として表示されることに対して敏感なユーザーほど、広告ブロッカーを利用する傾向があります。
また、広告によって自分が特定されるような個人情報が収集されるのではないかと不安に思うユーザーも広告ブロッカーを利用する傾向にあります。
広告ブロッカーが広告主に与える影響
ユーザーにとって広告ブロッカーを使用することで、不快なストレスを軽減し、コンテンツに集中できるというメリットがあります。しかし、広告主にとって重大な課題をもたらします。実際にどのような懸念点があるのでしょうか。
露出の減少
広告ブロッカーは、低品質な広告と高品質な広告の違いを考慮しません。いくら広告主が高品質な広告を制作したとしても、ユーザーにメッセージは届かないため、広告キャンペーンの効果が大幅に低下することが予想されます。
ROIの低下
広告が表示されないということは、広告費に対する投資収益率(ROI)が低下する恐れがあります。せっかく費用と時間をかけて制作した広告であっても、投資に対するリターンが得られにくくなり、費用対効果の悪化が懸念されます。
ターゲティング精度の低下
広告をブロックされることで、ユーザーのインターネット上の行動データの取得が難しくなります。これにより、ターゲティングの精度が低下することが想定され、最適な広告配信が難しくなる可能性があります。
今後、広告ブロッカーの利用が増えることや、Cookieの利用制限が厳格化される流れのなかで、広告主は広告戦略や技術を駆使し、広告の効果を最大化する方法を模索する必要があります。
広告ブロッカーを巡る世界の動向
広告ブロッカーの使用は世界中で増加しており、広告ブロッカーを巡る攻防が繰り広げられています。マーケターの私たちも、広告ブロッカーを巡る最新の動向を注視し続ける必要があります。
【 Apple 】
2024年6月、AppleがiOS18とMac OS 15の新機能として、バナー広告から記事、ページ全体までを削除できる機能「Web Eraser」をデフォルトで搭載するとの噂が出回り、世界中の広告収入で収益を立てているインターネット広告企業が震え上がりました。
今回はこの機能は実装されませんでしたが、実装可能だったこの機能は、事実上 Safari 経由の全ての広告を半永久的にブロックすることが可能となる広告ブロック機能でした。この機能が実装されれば、収入源を広告に依存しているインターネット企業など、世界中の数百万の企業全体に影響を与えるため、世界中の大手メディアが深刻な懸念を表明する事態にまで発展しました。
事実、2017年からAppleがユーザーのプライバシーを保護するために搭載した、クッキー利用を制限するITP(Intelligent Tracking Prevention)の影響で、多くの情報が取得できなくなるなど、Safari経由の広告収益は60%ほど減になったと伝えられています。
既に実装可能な段階まで来ているこの技術は、テクノロジーの進化に伴うディスラプト(disrupt)となるのか、私たちマーケターは注視しておく必要があるでしょう。
【 YouTube 】
2023年頃からYouTubeは、広告ブロッカーを使用するユーザーに対して、広告ブロックの無効化を行うか、広告表示なしで動画視聴ができるYouTube Premiumに加入を促す取り組みをテストしてきました。
この取り組みでは、広告ブロッカーを使用するユーザーに対して、広告ブロッカーの無効化、又は、YouTube Premiumへの移行を行わない場合、3本以上の動画を視聴できないという措置を講じました。また、近年YouTubeは、広告をより多く表示させる実験を行っており、視聴者の忍耐力を試していると言われています。(私もついに心が折れて、Youtube Premiumに加入しました。)
2015年から広告ブロッカーによる収益損失を抑える目的で開始されたYouTube の「サブスクリプションサービス」は、全世界で1億人以上、100を超える国と地域で利用することができるため、今後も広告ブロッカーの無効化 → YouTube premiumへの加入促進に注力していくようです。
広告ブロッカーについての統計データ
1.世界48カ国の50%の人が、何らかの広告ブロッカーを使用している
2023年1月から2024年1月にかけて世界48か国の48,000人に実施された調査によると、回答者の約50%が何等かの広告ブロッカーや追跡防止サービスを使用していると回答しています。
2.デフォルトで広告ブロッカー機能が組み込まれている
全ての広告をブロックするわけではありませんが、優れたユーザーエクスペリエンスを向上させることを目的に、GoogleChromeにはデフォルトで広告ブロッカーが組み込まれています。
FirefoxやSafariにも同様、広告をブロックする機能や多数のプラグインが用意されています。
3.男性の広告ブロッカー利用率が高い
16-64歳を対象にした調査の中でも「25~34歳の男性ユーザー」が、最も利用率が高く43.2%となっています。平均で男性の38.6%が利用しています。
4.女性の利用率の平均は「33.4%」
最も低い年齢層は55-64歳の女性で利用率は28.1%です。
全ての年齢層で女性よりも男性の方が高い利用率を示しているということは注目すべきポイントです。なお、女性の中で最も高い利用率は、25~34歳までが約38.5%と、男女問わず広告ブロッカーの利用率が最も高い年齢層が25~34歳です。
こちらのブログ記事でもご紹介しましたが、ミレニアル世代にあたるこの年齢層は、従来の広告フォーマットを嫌い、積極的に広告を閲覧することを避ける傾向にあることが分かっています。
5.広告ブロッカー国別普及率トップは「中国・インドネシア・ベトナム」
2024年1月、世界で最も広告ブロッカーが利用されている国は、インドネシア・ハンガリー・ベトナムでした。普及率は40%近くになり、ギリシャや台湾も高い水準をキープしています。
東南アジア地域では広告ブロッカーの利用率が高い傾向があります。中でも「インドネシア、ベトナム、中国」は、他国と比較すると利用率が高い傾向にあります。一方、日本での広告ブロッカーの利用率は 17.9%と、比較インターネットの普及が進んでいるにもかかわらず、ガーナに続いて最も広告ブロッカーの使用が低い国でした。上位10か国と比較すると大きく後退していることが分かります。
6.一番迷惑な広告は「音声自動再生される動画広告」
アメリカのインターネットユーザーの 66% は、ウェブサイト閲覧時に「サウンドありで自動的に再生されるビデオ広告が最も邪魔な広告である」と回答しています。サウンドなしで自動的に再生されるビデオ広告であっても 55% のユーザーが広告を「邪魔である」と回答しています。
自動再生するビデオ広告に対して強いアレルギーを持っていると言えそうです。逆にデジタル広告は邪魔にならないと回答しているユーザーは10%に留まっており、殆どの米国ユーザーはデジタル広告に対して少なからず「嫌悪感」を持っていると言えるでしょう。
7.米国における広告ブロッカーユーザーは、約7,300万人以上
2020年、米国における広告ブロッカーのユーザー普及率は、26%に達したことがわかっています。パーセンテージではなく、数字で表すと約7,300万人。
米国における広告ブロッカーを使用するユーザー数は年々増加しています。
8.スマホよりもデスクトップの利用率が圧倒的に「高い」
米国における広告ブロッカーの利用率を「端末ベース」で見てみると、全ての年齢層においてスマートフォンよりもデスクトップの方が広告ブロッカーの利用率が高い傾向があります。
特に18歳から24歳までの年齢層では、デスクトップの広告ブロッカーの利用率は60%、スマートフォンは18%で、42%もの大きな開きがあります。
<eMarketer : Use of Ad Blockers by US Adults, by Device and Age, March 2021>
米国のユーザーを対象にデジタル広告を配信する際は、スマートフォンよりもパソコンへの配信の方が広告がブロックされる確率が高いという事実は、頭に入れておくとよいかもしれません。
広告ブロッカーを攻略する対策
邪魔にならない広告を作成する
広告ブロッカーが存在する理由の一つは、迷惑で邪魔になる関連性の低いコンテンツを排除するためです。そのため、関連性が高く、ユーザー体験を邪魔しない広告を制作する必要があります。
さらに精密なターゲティングを活用し、タイムリーで関連性の高い広告コンテンツを提供しましょう。
パーソナライズされた魅力的なコンテンツを制作する
顧客ごとに最適化したコンテンツは、マーケターが効果的にユーザーを惹きつけるための強力なツールです。最適化された価値のあるコンテンツは、ユーザーとの信頼関係を高め、ブランド価値の向上にも繋がります。
顧客の興味関心度の高いトピックや課題解決に役立つ記事や動画、ホワイトペーパーなど多様なコンテンツを取り入れてみましょう。
ソーシャルメディアを活用する
ソーシャルメディア上では、広告ブロッカーの影響を受けにくい事で知られています。
ユーザーがソーシャルメディアを利用する目的は「娯楽」や「情報収集」が主な理由です。ユーザーの興味・関心にマッチした魅力的なコンテンツを作成することで、ユーザーの関心を引きましょう。
さらに、FacebookやInstagram、Xなどのスポンサーコンテンツなどは、広告ブロッカーの影響を受けにくいため、効果的に活用することをおすすめします。
ネイティブ広告を活用する
ネイティブ広告は、周囲のコンテンツに溶け込む形で表示されるデジタル広告です。従来のバナー広告やポップアップ広告とは異なり、表示されるメディアやプラットフォームの雰囲気に融合するように設計されているます。一般的に広告ブロッカーから検出されにくい形式で広告がブロックされにくいと言われています。
例えば、大韓航空は観光地としての韓国の認知を高めるために、ネイティブ広告を活用し、富裕層向けに韓国の文化に焦点を当てた魅力的なスポンサードコンテンツキャンペーンを実施しました。BBCに公開された魅力的なコンテンツは、非常に好評でソーシャルメディアで広く共有されるなど、露出を高めることに成功しました。最終的に利用検討率が139%上昇し、ソーシャルメディアエンゲージメントは24万件、動画の視聴回数は870万回に達しています。
プラグマティック広告を活用する
プログラマティック広告は自動化された入札システムを利用して、デジタル広告をリアルタイムで購入、及び最適化します。そのため、ターゲットユーザーに対して効果的に広告配信を行えます。
プラグマティック広告は広告ブロッカーの影響を受けてしまいますが、プログマティックネイティブ広告を活用することで、ユーザーへの可視性を高めることが出来るでしょう。
さいごに
広告ブロッカーが浸透し、デジタル広告環境が変化するにつれ、ユーザーエクスペリエンスの向上や透明性を確保する企業やブランドが優位な立場になることが予想されています。
Z世代やミレニアル世代といった比較的若い世代や、高所得者は広告ブロッカーを使用する可能性が高いことも分かっています。広告ブロッカー以外にも、近年Apple社やGoogle社が進めているサード・パーティー・クッキーの廃止等、広告媒体側からの新たな規制も進行しています。
海外向けのデジタル広告を配信する場合、広告ブロッカーの動向を注視するとともに、ユーザー中心の広告戦略を考慮しましょう。常に変化する海外市場におけるデジタル広告配信に関してお困りのことがありましたら、是非、インフォキュービック・ジャパンにお声がけください。
吉田 真帆 マーケティング部 プランナー
コンテンツ・SNS・メールマーケティングを統括しています。 オーストラリア永住権を取得したにも関わらず、思いもよらず日本に帰国。日本9年を経て、現在はシンガポールからフルリモート中。