「エシカル(倫理的)マーケティング」に取り組む海外企業事例、5選!
企業活動において「単に利益が拡大すればよい」という時代から、地球環境を含めた企業の「持続可能性」や「企業の倫理観」などが求められる動きは年々加速しています。持続可能な開発目標であるSDGsをはじめ、金融機関が環境・社会・企業統治で投資先を決定する指標として用いられるESG指標、企業を企業倫理・法律順守・社会的影響で分析するELSI分析、経済・環境・社会に与えるインパクトを図るGRIなど、ビジネスにおける収益性の追求だけでなく、企業の倫理的取り組み・価値観などが重要視される時代となりました。
銀行世界大手のモルガン・スタンレーが実施した調査によれば、ミレニアル世代の85%がESG投資に高い関心を示し、BoF&McKinseyの調査レポートによれば、全世界のミレニアル世代の60%は、「社会的責任に向き合い、取り組むブランドに投資したい」と回答しています。
企業の積極的な取り組み・企業倫理観などに消費者の関心が高まっている現代。すでに世界は持続可能な社会へシフトするフェーズに突入しており、キャッチアップできない企業はビジネスすら成り立たなくなる可能性も示唆されています。
今回は、倫理的な(エシカル)マーケティングや企業ブランディングを実践している海外企業5社を、具体的な取り組みともにご紹介します。
目次
「エシカル(倫理的な)マーケティング」とは?
倫理的な(エシカル)マーケティングとは、企業が顧客にとっての価値を訴求するだけでなく、社会的責任や環境問題に対する価値観に基き、自社商品やサービスをどのようにマーケティング展開を行うかを示す概念です。
海外では「Ethical Marketing/(エシカルマーケティング)」という言葉で定義付けられています。
公平性や信ぴょう性、透明性を重視し、さまざまな意思決定を道徳的観点から健全な価値観の下で実行することで、「顧客に寄り添いながら倫理観を重視するマーケティングを実践することこそが最終的に自社の大きな利益やブランド価値向上をもたらす」という考え方です。
倫理的な(エシカル)マーケティングの重要性や、実践するための注意するポイントなどはこちらのブログ記事で詳しくご紹介していますので、ここでは、優れた倫理的な(エシカル)マーケティングを実践している海外企業の取り組みを具体的にご紹介していきます。
優れた「エシカルマーケティング」を実践している海外企業、5選!
パタゴニア
皆さんもご存じの通り、世界的アウトドアウェアブランドであるパタゴニア社はビジネスという手段を通して環境保護へ貢献するという新しい価値観を作った先駆者的ブランドの1つです。
パタゴニアは「We’re In Business To Save Our Home Planet./私たちは故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というミッションステートメントを掲げ、1985年の設立以来、年間売上の1%を自然環境の保護や回復のために、環境保護団体に寄付する取り組みを行っています。
小売り業界では、ほとんどのブランドが「早く・安く」製品を提供することに注力しています。しかし、パタゴニアは「環境に不必要な害を与えず、ビジネスを通して環境危機の解決策を模索すること」で、競合他社との差別化を目指しています。
< Patagonia Don’t Buy This Jacket >
同社が2011年11月25日にニューヨークタイムズ紙に全面広告として打ち出した「Don’t Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」は、伝説的な広告として今でもパタゴニアのブランドイメージ語るうえで欠かせない語り草になっています。
ブラックフライデーに掲載されたこの広告は、このジャケットの生産には136リットル以上の水が必要でることなど、パタゴニア製品を買うべきでない理由を具体的に明示しました。消費者の「安易な消費行動」に異議を唱え、一人ひとり消費行動によって破壊される環境問題を再考するよう訴えかけたのでした。
「SDGs・ESG・持続可能性」といった言葉すら公的に定義されていなかった2011年に、消費者の購買行動を促す広告キャンペーンを使い「安易な消費行動」に忠告を促したこのキャンペーンは、より良き方向へと社会を発展させる重要なキャンペーンとして、世界中で話題となりました。
現在のパタゴニアのウェブサイトでは、「Activism」ページでは「政治・気候変動・生物多様性・反人種主義」などのトピックを。「Stories」ページではパタゴニアの「価値観」をストーリー形式でユーザーに発信し続けています。
パタゴニア社の商品単価はリーズナブルとは言えない価格帯の商品が多いですが、同社製品を愛用するユーザーは同社の倫理観・価値観に共感して、製品を購入することで、同社の持続可能な取り組みに貢献しています。
Lush
<LUSH>
Lushは1994年にマーク・コンスタンティン氏とモー・コンスタンティン氏によって英国のドーセット州で設立された、バス用品やスキンケア用品を製造・販売しているブランドです。Lushも創業当時から一貫して「倫理性」を強く意識した企業運営とマーケティングを実践している企業です。
例えば、同社の代表的商品の一つにバスボムがあります。バスボムは全世界の全店頭でラッピングされていない状態で陳列され、販売されています。ラッピングされていない状態で販売することは、ゴミの削減にダイレクトに繋がり、合成保存料を添加せずに商品を製造販売することへ繋がっています。
LUSHウェブサイトの Our Valueページには、「Ethical(エシカル)」というワードで埋め尽くされており、LUSHが企業としての倫理観を重要視していることが伺えます。
その中で特に注目すべきページは「The Lush Ethical Charter 」ページです。このページではLUSHという企業の「核となる倫理的方針」が明確に定められており、LUSHの確固たる“哲学”が存在することが見て取れます。
LUSHでは、環境保護だけでなく人権問題の解決にも積極的に取り組んでおり、2015年には「WE BELIEVE IN LOVE – LGBT支援宣言」キャンペーンを展開しました。このキャンペーンはセクシャルマイノリティの認知と支援の拡大を目的に、オフライン・デジタル施策の双方でキャンペーンを実施。キャンペーンは反響を呼び、各店舗には「All Are Welcome, always(常に全ての人を受け入れる)」という企業スローガンが書かれた虹色のボードを手に持ったユーザーが押し寄せ、世界中で話題となり、積極的に「人権問題に取り組んでいる企業」として、世界で高く評価されました。
また、近年では2021年「SNSプラットフォームは安全にユーザーが使える環境が整っていない」という理由から、Facebook・Instagram・TikTok・SnapchatなどのSNSを利用しないと決断し、また世界中で話題となりました。その際、Instagramのアメリカアカウント単体だけでフォロワー数が400万人以上存在していたことを考えると、非常に大胆な決断である反面、「顧客の安全を最優先した選択である」とさらに、ファンとの信頼関係を強めました。
現在、LUSHが活用しているSNSの1つ、YouTubeチャネルを通じては、LUSHの価値観や倫理観をユーザーにダイレクトに訴えかける動画を発信しており、「再生農業や人権・ジェンダー・動物実験への反対」など幅広いトピックに関する動画を共有しています。
LUSHのファンには「商品を購入することにより、環境問題や人権問題の解決に向けた取り組みに間接的に参加できる」という概念が浸透しており、ユーザーのリピート率も非常に高く、企業倫理及びエシカルマーケティングが持続的に成功している優秀な企業例であることは間違いありません。
TOMS
<TOMS_ Impact>
倫理的な(エシカル)マーケティングを実践する第一人者的企業がシューズメーカーのTOMSです。
TOMSは2006年にブレイク・マイコスキー氏によってカリフォルニアで創業されました。マイコスキー氏が創業前にアルゼンチンに旅行した際、現地には靴が買えない子供達が沢山いる現実を知り、その子供達のためにできることを模索して立ち上げたのが創業のきっかけでした。
TOMSの消費者が1足購入するごとに、発展途上国の子供達に新たな靴を1足贈る「One for One」というブランドコンセプトは、世界中のユーザーに受け入れられました。デザイン性と履き心地に優れたTOMSの靴を購入することで社会貢献ができるというビジネスモデルはセレブ層を中心に支持を集め、TOMSは急速に発展し、シューズ以外でもアイウェアやハンドバッグ、コーヒーなども製造販売する一大ブランドに成長しています。
TOMSは環境活動や慈善活動をベースとしたビジネスモデルであり、ウェブサイトでの発信はもちろんのこと、SNS・企業コラボレーション・マーケティング資料など、どの部分を切り抜いたとしても一貫した「ブランド価値」を提供しており、ファンの心をしっかりと掴んでいます。
また、創業者であるマイコスキー氏はメディアへの露出や情報発信を積極的に行い、自社のビジネスモデルを大々的にPRしていきました。その結果、多くのメディアに取り上げられ、数々の賞を受賞。消費者との信頼関係を構築し、結果的に大幅なマーケティングコストの削減に成功しています。この急成長を遂げたTOMSのマーケティング戦略は世界中から注目を集めています。
2019年からTOMSは、3ドル稼ぐごとに1ドルを基金に寄付しています。
Dr.Bronner’s
1948年から続くDr. Bronner’s(ドクターブロナー)は、米国カリフォルニア州に本社があるオーガニック石鹸ブランドです。日本でもご存知の方は多いと思いますが、米国で最も売れているオーガニック液体石鹸ブランドの1つです。
ドクターブロナーの創業者兼医師であるエマニュアル・ブロナー氏の思想は非常にインパクトのあるものでした。「資本追求型社会」であった創業当時は受け入れられず、精神病院へ送られるなどの経験の持ち主です。現在ようやく時代が追いついた…ともいうべきブランドの1つです。
ドクターブロナーの取り組みは非常にユニークで、エマニュアル・ブロナー氏が提唱した「世界平和と宗教や民族の差別のない結束」を唱えるオールワンビジョンを企業理念とし、商品パッケージには彼が掲げた「宇宙の原理」がデザインされています。
ドクターブロナーでは「社会的・環境的に責任ある高品質の製品を製造し、利益をより良い世界を作るために捧げ、世界にポジティブな影響を与えること」を目指しています。
オールワンビジョンでは下記のようなことが定められており、同社社員の行動指針になっています。
- 従業員を家族の一員のように大切にすること
- 原材料生産者に対して公平であること
- 地球を自分の家のように大切にすること
- 有機農業の促進
- 動物愛護活動の促進
同社の取り組みは多岐にわたり、ソープボトルには100%リサイクルプラスチックの使用、フェアトレードへの取り組み、化学肥料を使わない持続可能な農業、遺伝子組み換え食品への表示義務活動、生産・廃棄・消費に伴って発生する破棄されるものをゼロにする「ゼロ・エミッション」、役員報酬の制限など、利益追求主義ではなく、自社が抱えるミッションを優先する姿勢を一貫して取り続けています。
ドクターブロナーの取り組みは、単に「時代がそのように変化したから、消費者ニーズが変化したから」ではなく、創業当時から現代に至るまで長き渡り、企業理念観・ビジネス戦略に根付いているからこそ、ファンを引き付け愛されるブランドであり続けることができているのです。
Apple
<Apple Inclusion & Diversity>
Apple社といえば、「スタイリッシュで美しいデザイン、先進的で独創的なデバイス」というイメージが強く、近年まで「エシカル」なイメージとは程遠かった企業です。しかし、近年は倫理的な(エシカル)取り組みを率先して行っている代表的な企業に変貌を遂げています。
近年AppleウェブサイトのApple Valueページには、「Education(教育)」「Enviroment(環境)」「Inclusion and Diversity(多様性)」「Privacy(プライバシー)」「Racial Equity and justice(公平性と正義)」「Supplier Responsibility(サプライヤーの責任)」といった、Appleの取り組みや価値観・倫理観を紹介するページが追加されました。
また、Appleは「2030年までにカーボンニュートラル100%達成の実現」を掲げており、地球規模の環境対策に乗り出しました。
- 低炭素設計 ‐ できる限り多くのリサイクル素材を用いて製品を開発し、iPhoneやiPad、MacBookなどの自社端末のエネルギー消費量を減らす。
- 再生可能エネルギーの使用 ‐ Apple社製商品の流通にかかわる全てのオフィス、店舗、データセンターにおいて太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使用する。
- Mac Book Proを低炭素アルミニウムで製造 ‐ 2020年、Apple社は16インチのMacBook ProがApple初の低炭素アルミニウム製品になることを発表しました。16インチのMacBook Proは同社の主力製品であり、その主力製品でノンカーボンを実現したことは大きな話題になりました。
- クリーンエネルギー基金の創設 ‐ Apple社は、2018年に3億ドル(当時約338億円)規模のクリーンエネルギー基金を中国に創設。同基金によって3カ所に風力発電施設が建設されています。
- 紛争鉱物の使用を抑える ‐ Apple社は従来、携帯電話やコンピューター、通信機器の製造に使用される頻度の多かった「すず・タンタル・タングステンなどの紛争鉱物」の使用を抑えています。米国の非営利団体Enough Projectが2017年に発表した株式時価総額の高いトップ企業20社の「紛争鉱物不使用度」ランキングにおいて一位を獲得しています。※紛争鉱物とはアフリカ諸国など紛争地域で採掘された鉱物資源のこと
Appleの取り組みは単に「企業アピール」でななく、サプライヤーも含めた地球規模の取り組みへと発展しています。また、このAppleの取り組みは世界的にも評価されており、2019年には日本の環境省からも「サーキュラーエコノミー(循環型経済)を推進する先進的な企業」として表彰を受けています。
さいごに
海外デジタルマーケティングで特に昨今、特に重要視されている概念である「倫理的な(エシカル)マーケティング」を実践している企業をご紹介させていただきました。どの企業でも共通しているのが企業倫理の定義付けが明確であり、オンライン・オフライン問わず全てのマーケティング活動に「企業倫理」が浸透していることです。
環境問題やSDGsへの関心が高まっている昨今、消費者も企業の評価をする上で企業倫理は重要なウェイトを占める傾向が強まっています。
「数ある世界のブランドのなかで選んでもらい、ブランドを愛してもらう」ために必要となるグローバルマーケティングにお困りでしたら、ぜひインフォキュービック・ジャパンにお声掛けください!
吉田 真帆 マーケティング部 プランナー
コンテンツ・SNS・メールマーケティングを統括しています。 オーストラリア永住権を取得したにも関わらず、思いもよらず日本に帰国。日本9年を経て、現在はシンガポールからフルリモート中。