海外企業の優れた「色」の使い方
~デジタルマーケティング×色彩心理学~
コーポレートカラーやゴロのカラーは、その企業の個性を表すだけでなく、社内外ともにブランディングの一環として非常に重要な役割を持っています。
Facebook・Twitter・LinkedInといったSNSプラットフォーム、IBM・Salesforce・Dellと言った多くのIT企業、VISA・シティバンク・・ペイパル・ゴールドマンサックスといった金融企業などのブランドカラーに「青色」を活用しています。これは単に「創業者が青色が好きだった」というわけではなく、理由や動機を持って戦略的に「最適なカラー」を選択しています。
色彩心理学によると、青色は「信頼・安定感・忠誠」を呼び起こす傾向があります。それぞれの「色」は人間の知覚に影響を及ぼし、意思決定などの行動や感情などに作用することは「色彩心理学」の視点からも実証されています。「色」は、人間の感情と結びつきブランドの印象を大きく左右する重要な役割を持っています。
今回の記事では、マーケティングにおける色の重要性やそれぞれの色が持つ特徴を含め、各企業のブランドガイドラインを参照にしながら「海外企業の優れた”色”の使い方」を解説していきます。
目次
マーケティングにおいて「色」が重要な理由
「色」の影響はは人間の脳に影響を及ぼし、意思決定などの行動や感情などに作用することは「色彩心理学」の視点からも実証されています。
人間の脳に送られる情報の90%は視覚的なものであり、テキストよりも画像のほうが、60,000倍も速く処理出来ることが分かっています。また、カナダ・ウィニペグ大学の「Impact of Color on Marketing」という研究では、消費者は商品を見てから90秒以内に無意識に商品の評価を下し、その評価のうち「約62%~90%は”色”だけで製品を評価する」ということが証明されています。さらに、84%以上の消費者は、製品を購入する主な理由として「色」を挙げています。
記述したものはごく一部にしかすぎませんが、様々な研究により「色」は消費者の意思決定に影響を与え、ブランドの印象を大きく左右する非常に重要な要素である以上、色がユーザーにどのような影響を与えるかを正しく理解しておく必要があります。次項では、色が持つ特徴を詳しく見ていきましょう。
それぞれの色が持つ特徴
色は人間の感情と深く結びついています。それぞれの色が引き出す感情とはどのようなものなのでしょうか。ここではブランドカラーとしてよく活用される代表的な色を挙げ、それぞれの色が一般的にどのような感情・印象を形成するのかを見ていきましょう。
実際は、複数の色の組み合わせや、ユーザーの個人的嗜好、経験、国や地域の文化性などが複雑に絡み合い、ブランドイメージが形成されるため、ユーザーが感じるブランドイメージはより複雑で多岐に渡ります。海外向け施策の場合はターゲットとなる国や地域の嗜好性も考慮していきましょう。
● 青
青は、穏やか・安全・信頼・責任・落ち着き・忠誠心・親しみやすさなどを連想させます。クレジットカード会社の75%以上のブランドロゴで青色が使用されているも、色がユーザーにどのような影響をもたらすのかを考慮したうえで、自社のブランドのイメージに合う最適な色を選定しているのでしょう。
● ダークブルー
信頼・安心・フォーマルな印象を与えます。成熟していて信頼できるブランドイメージを作り出します。主にIT系や金融系企業で活用される色であり、「VISA」「ペイパル」「ASUS」「サムスン」などが濃いブルーを採用しています。
● ライトブルー
透明性・開放感・友好的をイメージさせます。無垢な印象を同時に与えることができます。ダークブルーと同様にIT系企業で活用されることが多い色です。代表的な企業として「IBM」「Salesforce」「DELL」「Twitter」などを挙げることができます。
● レッド
愛・情熱・興奮・怒り・欲望・自信・暖かさを表します。活気に満ちた色で注意を引き付ける色のため、信号機などにも取り入れてられています。また、「衝動的な購入」を促す色でもあるため、小売りブランドの60%以上が赤色をブランドロゴに取り入れています。また、飲食・美容・おもちゃなど幅広い業種で活用される色で、「コカ・コーラ」「任天堂」「LEGO」「コストコ」がブランドカラーとしてレッドを採用しています。
● イエロー
希望・エネルギー・幸福感・危険・若さ・遊び心・楽観主義をイメージさせます。同時に注意を引き付ける作用を持つため、道路工事や線路など注意を惹きつける場面に多く登場する色でもあります。「マクドナルド」「シェル」「Nikon」「Snapchat」がブランドロゴとしてイエローをメインに使用しています。
● オレンジ
喜び・遊び・快活感・フレンドリー・活力・ユーモアを連想させます。黄色よりは強く、赤よりは優しい印象を与え、好意的にみられる作用を持ちます。
● グリーン
環境・繁栄・健康・成長・調和・バランスを連想させます。また、自然との繋がりや調和をイメージさせる作用も持ちます。目が処理しやすい優しい色であるため、農業・飲食店などでよく用いられます。「スターバックス」「トロピカーナ」がグリーンをメインカラーとして採用している有名ブランドです。
● ピンク
女性らしさ・ロマンス・若々しさ・無邪気さ・甘さを連想させます。モダンなものからラグジュアリーなものまでをカバーします。色の濃さによって与える印象は大きく変化するカラーです。「LG」「バスキン・ロビンス」「T-Mobile」「バービー」がピンクをブランドカラーとして採用している有名ブランドです。
● ブラウン
信頼性のある・素朴な・自然・素朴・洗練されていない少し古びた印象を与えます。ポジティブな印象として逞しさを彷彿させます。チョコレートブランドの「M&M」や「GODIVA」、米国運送企業の「UPS」、「ネスプレッソ」がブラウンを採用しています。
● パープル
創造性・忠誠心・贅沢・魔法・神秘・スピリチュアリティを醸し出し、自然界にはあまり見られない色です。「Taco Bell」「FedEx」、ゲーム実況配信プラットフォーム「Twitch」がパープルを使用しています。革新的で表現力豊かな製品やサービスを伝えるために効果的なカラーです。
○ ホワイト
清潔感・シンプルさ・美しさ・健康・中立性・平和などのイメージを醸し出します。廉価ブランドからハイエンドブランドまで幅広い分野で活用されます。コントラストを保つために、余白に用いられる色です。他の色とのバランスを保つために幅広く活用できる色です。
● グレー
落ち着き・真面目さ・中立・効率的・クラシカル等のイメージを形成します。はっきりしない色であることから中立性を連想させます。様々な業態で活用されます。「Apple」「HONDA」などがコーポレートカラーとして活用しています。
●ブラック
洗練・優雅・力強さ・高級感・神秘的・セクシャリティエッジが効いていて現代的というイメージを醸し出します。業種を問わず幅広い分野で使用されており、有名ブランドでは、「NIKE」「PUMA」「CHANEL」がブラックを使用しています。
● ゴールド
ゴールドは豊かさ・高級・威信などを連想させるカラーで、強い存在感を与えます。単色とは異なり、光沢も含めた色のためメインカラーの引き立てるために用いられることが多い色です。
【事例】企業の優れた「色」の使い方
ここでは各企業のブランドガイドライン・ブランドアイデンティをもとに、企業の優れた色の使い方についてみていきましょう。
1.Google(ブルー・レッド・イエロー・グリーン)
Hex color : #4285F4、#DB4437、#F4B400、#0F9D58
<Google Design_Evolving the Google Identity>
Googleのロゴの色は、3原色であるブルー・レッド・イエローと副色であるグリーンを組み合わせています。色の組み合わせは独創的で、知性・強さ・創造性・成長を表しています。Googleがこの4色を採用しているのは、常にシンプルで親しみやすく、視覚的に魅力的であり、ブランドを認識しやすくするためです。
ロゴデザインの改良を依頼されたスタンフォード大学助教授のRuth Kedar氏は、ブランドガイドラインに3色以上を使用しないように決められていたにも関わらず、4色を採用しました。これは、「決められたパターンに従いつつも、型破りで独創的であることの重要性を社会全体に伝えたかった」というメッセージが込められていると言われています。
Googleと同系な配色を使用するブランドとして、Slack・ebayなどが挙げられます。
2.Instagram(イエロー・オレンジ・ピンク・パープル)
Hex color : #FFD600、#FF7A00、#FF0069、#D300C5、#7638FA
Instagramは当初、写真共有プラットフォームとは関連性の低いブラウンを主体とするレトロなカメラをイメージしたブランドロゴを使用していました。しかし、レトロな雰囲気に興味のない「若い世代」をターゲットに、ブランドロゴのカラーとデザインを大きく刷新しました。現在では、世代を超えた全てのコミュニティーを包含するという意味を込めて、カラフルな5色のブランドカラーを軸に構成されています。現在のInstagramはブランドカラーを軸にしたグラデーションを特徴とし、創造性・活気・自己表現を称賛される体験を感じられるカラーで構成されています。
3.Snapchat(イエロー・ブラック・ホワイト)
Hex color : #FFFC00、#000000 、#FFFFFF
チャットアプリとして人気の高いSnapchatは、イエローをメインカラーに、ゴーストのロゴを使用しています。
Snapchatの創業者であるエヴァン・シュピーゲルは、ブランドロゴを考案するためにいくつもの他社アプリを眺めていたところ、彼が気づいた一つの特徴が、「どのアプリもイエローを使用していない」ということでした。どのアプリよりも目立ち、一目でSnapchatであることを分かるようにするため、そのロゴ背景にイエローを採用したそうです。イエローが他のカラーよりも目立つ特性を活用した事例です。
4.Slack(ホワイト・ブラック・パープル・ブルー・グリーン・イエロー・レッド)
Hex color : #FFFFFF、#1D1C1D、#4A154B、#36C5F0、#2EB67D、#ECB22E、#E01E5A
<slack_Brand Guidelines>
ビジネスコミュニケーションツールとして世界中で利用されているSlackのロゴは、シンプルな幾何学図形と4原色で構成されています。4原色で構成することにより、モバイルや小型デバイスのアプリケーションであってもロゴとして読み取ることが出来るようデザインされています。
4つの色を用いて遊び心がありつつもデザインが洗練されているロゴが特徴的です。ブルー・グリーン・イエロー・レッドという異なる色を組み合わせることによって、チームワークやコラボレーションを連想させるイメージを作り上げています。
5.PayPal(ダークブルー・ミディアムブルー・ライトブルー・マスタード)
Hex color : #003087、#026CFF、#009CDE、#FFC43A
<PP_Brand Guidelines_Newsroom_2022 >
オンライン決済サービスを提供するPayPalはダークブルー(Pay Blue)とライトブルー(Pal Blue)をブランドロゴに用いています。決済サービスを提供するペイパルは、高度なセキュリティーを維持し安全にサービス提供することが、オンライン決済を利用するユーザーにとって最も重要なことの一つです。ブランドカラーそれぞれのブルーが持つ信頼感、プロフェッショナルで安心安全なイメージをブランドカラーに取り入れています。
6.Apple(ブラック・グレー)
Hex color : #000000、#555555
スマートフォンや様々なモバイル端末でIT業界を率いるAppleは、ブラック・グレーを採用しています。グレーは一般的にバランス感をイメージさせます。
シンプルでスタイリッシュな色彩を活用して、オンライン・オフライン全てのブランドメッセージの一貫性を保っています。Appleは、実店舗・製品・ウェブデザインなどAppleに関わる全てのユーザーインターフェースに一貫性を持たせることで、統一した世界観を創りだし、非常に強力なブランド力を生み出しています。
7.Netflix(ネットフリックスレッド、シンボルダークレッド)
Hex color : #E50914、#B20710
<Netflix Brand Site_ BLAND LOGOS>
動画配信サービスを提供しているNetflixは1997年のサービス開始からこれまでに大きく3回ブランドロゴを変更しています。2つ目のロゴからはレッドをそのブランド名に使用しています。レッドの持つ喜び、エネルギー、権威という特別なイメージをホームエンターテインメントに持ち込む意味を込めています。
8.スターバックス(グリーン:スターバックスグリーン、アクセントグリーン、ライトグリーン、ハウスグリーン・ブラックなど)
Hex color : #006241、#00754A、#D4E9E2、#1E3932、#000000
スターバックスはメインカラーとしてグリーンを採用しています。ロゴからエプロンの色までブランド認知度を高めるために戦略的にグリーンを採用しています。
“Our green is iconic. Visible for blocks. It’s our most identifiable asset, from the color of our aprons to our logo.” < Starbucks Creative Expression>
グリーンは中立的で平和的な感情を呼び起こします。また同時に洗練さと落ち着いた伝統的な雰囲気を醸し出します。グリーンを用いることによって、スターバックスは世界の平和に対する姿勢を示しています。また、カジュアルなビジネス会議やくつろぎの場所として店舗を気軽に利用してもらうよう店内の壁や商品の様々な箇所にグリーンを用いています。
9.マクドナルド(レッド・イエロー、ブラック)
Hex color : #FFC72C、#DA291C、#27251F(ロゴカラー)
マクドナルドは戦略性をもってレッドとイエローをブランドカラーとして使用しています。
赤色は身体的な影響も与えると言われており、人の心拍数を増加さるため食欲増進にも繋がる色と認識されています。2005年、Durham大学の研究者たちは、スポーツ競技において赤色のスポーツウェアを身に着けたチームが勝つ確率が高いとの「調査結果: Red enhances human performance in contests」を発表しました。赤色は、興奮度や覚醒度を高め、競技力を高める効果を持っているのです。また、イエローは他の色と比較すると視覚的に認識されやすい色であるため、建物が雑然と連なる場所でも目立つことが出来る色でもあります。アメリカ・アリゾナ州セドナに世界で唯一存在する「青いマクドナルド(公式)」(ぜひ、検索してみてください)と比較してみると、、、カラーの重要性が非常によく理解できるかと思います。
さいごに
普段我々が何気なく目にするブランドロゴや様々な商品には、色が与える印象やイメージを考慮し戦略的にブランドカラーが採用されています。もちろん、実際のブランドイメージは、デザインによっても左右されます。しかし、色によって人が受ける印象は全く異なり、それはブランドへのイメージ形成や売上にも大きく影響します。色の選定はブランド面でもビジネス面でも非常に重要なポイントの1つです。自社の競合他社がどのような色を採用しているかじっくり研究してみるのもお勧めです。
自社のウェブサイトのデザイナーだけでなく、マーケティング担当者が色彩心理学や色の重要性を理解することは、デジタル化が急速に進む「今」において、マーケティング施策を成功に導くヒントになるのではないでしょうか。
吉田 真帆 マーケティング部 プランナー
コンテンツ・SNS・メールマーケティングを統括しています。 オーストラリア永住権を取得したにも関わらず、思いもよらず日本に帰国。日本9年を経て、現在はシンガポールからフルリモート中。