低下するオーガニック・リーチへの対処法
~ソーシャルメディア・オーガニック時代は本当に終焉したの?!~
長年、ソーシャルメディア運用に関わっている方は、ご存知の方も多いと思いますが、ソーシャルメディアのオーガニック・リーチは明らかに低下しています。これは複数の海外メディアの調査によっても明らかになっています。
顧客との接点がデジタル化する流れのなか、世界中の多くの企業が試行錯誤を繰り返しながら、ソーシャルメディアを通じたユーザーとのコミュニケーション戦略に取り組んでいます。そのため、市場競争は激化し、さらに、度重なるアルゴリズム変更によってオーガニック投稿時代は終焉を?!迎えようとしています。
これからのソーシャルメディア運用は、オーガニック・リーチがさらに低下していくこと想定し、どのような戦略で攻めていくかということがとても重要になってきます。本記事では、ソーシャルメディアのオーガニック・リーチ低下の現状やその対処法について詳しく解説します。
目次
ソーシャルメディアの”オーガニック・リーチ”とは?
ソーシャルメディアにおける「オーガニック・リーチ 」とは、ビジネスページに投稿したコンテンツを見たユーザー数のことです。(有料広告の投稿を除いた投稿のことを指します。)有料広告の投稿を見てくれたユーザー数は「ペイド・リーチ」と呼ばれています。
コンテンツをクリックしたかどうかではなく、単純にコンテンツをみたユーザー数を「リーチ」と表現します。リーチは、同じユーザーが複数回視聴した回数もカウントされる「インプレッション」とは異なり、ユニークビューのみがカウントされます。
ソーシャルメディアがマーケティングに活発に活用され始めた当初は、ソーシャルメディア上で何かコンテンツを投稿すると、多くのフォロワーに表示されていましたが、ユーザー数・投稿されるコンテンツ量が増加するにつれて、オーガニック・リーチは年々低下する傾向が顕著になってきています。
オーガニック・リーチが低下している2つの理由
ソーシャルメディアのオーガニック・リーチが低下している理由は、大きく2つあると言われています。その代表的な理由が「競合の激化による投稿数の増加」と「アルゴリズムの変更」です。
競争の激化による投稿数の増加
現在、世界のソーシャルメディアユーザーが爆発的に増加していることやデジタル化の影響によって、「投稿されるコンテンツが増加」+「企業やブランドのが広告やプロモーションへの支出が増加」する事態となり、“フィード上でのスペースの取り合い”が激化している状況になっています。
世界最大のユーザー数を誇るFacebookでは、ユーザーがFacebookにログインするたびに、ニュースフィールドに表示される可能性があるストーリーが、平均して1,500件も用意されています。さらに、友達やページの「いいね!」が多い人は、約15,000件ものストーリーが表示される可能性があるとMeta社も言及しています。
もちろん、1ユーザーだけでそれだけのコンテンツ全てを見ることは不可能であり、どれだけ魅力的なコンテンツをオーガニックで投稿しても、そもそも「ユーザーに表示されない」、「なかなかリーチに繋がらない」という事態になっているのです。
アルゴリズムの変更
このような状況のなかで、ユーザーのエンゲージメントを向上させ、満足度を高めるため、各プラットフォームは定期的にアルゴリズムを改良し続けています。このアルゴリズム変更によって、オーガニック投稿のリーチが減少しているという状況が生まれています。
各プラットフォームのアルゴリズムについては最後の段落で詳しく説明しますが、例えば、Facebookでは2018年からユーザーが Facebook に費やす時間が有意義な時間となるように、コンテンツのランク付けに「滞在時間」ではなく「コンテンツの質」を重要視する方向転換を行いました。このアルゴリズム変更では、企業やブランド・メディアからのパブリックコンテンツの表示を減少させて、友人や家族の投稿を多く見つけられるような変更が加えられました。一方で、有料コンテンツやユーザー間で会話を生み出すような投稿はニュースフィードで上位表示されている傾向が見られるようになりました。
これはInstagramでも同様で、企業やブランドの投稿より、「家族・友達・グループのコンテンツ」を優先表示させる方向に完全に舵を切っています。
各プラットフォームのオーガニック・リーチが低下する現状
ソーシャルメディアのオーガニック・リーチの低下は、すでに何年も前から言われていましたし、長年運用に携わっていた方は明らかに実感していた方も多いのではないでしょうか。実際、複数のメディアの調査によってその事実が明らかになっています。まず、ソーシャルメディアのオーガニック・リーチ低下の現状とその理由などについて、最新のデータを元にどのような傾向があるかを詳しくみていきましょう。
デジタルマーケティングツールを提供するBuzzSumoが、2017年に実施した調査によると、(企業やパブリッシャーが投稿した8億8000万件以上のFacebook投稿を分析)Facebook投稿の平均エンゲージメントは2017年1月以降、20%以上低下していることがわかりました。
Socialinsider の調査では、2021年~2023年のFacebookのオーガニック・リーチ率が6.53%から2.21%下がって4.32%に乱高下していることが言及されています。さらに、Meta社自身もFacebookのオーガニックリーチが低下している事実について公式サイトにて明言しており、「投稿されるコンテンツの増加による競争の激化」が原因であると述べています。
デジタルマーケティングツールを提供するMetricoolが、2022年から2023年に実施した、241万以上の投稿・941万以上のストーリー・106万以上のリールを分析・調査した結果、リールへの投稿が2倍に増加した一方で、リーチは最大で76%も低下していることがわかりました。
ソーシャルメディアマーケティングツールを提供するHootsuiteも同様に、Instagramのオーガニック・リーチは 2015 年以降、50%以上も低下していると言及しています。
さまざまなソーシャルメディアがオーガニック・リーチを低下させている中、TikTokは例外的に平均値を伸ばしています。Instagram専門のマーケティング代理店Amfluenceは、「TikTokにおけるオーガニック・リーチ率は118%」と驚きの数値を出しています。また、Rival IQが発表したソーシャルメディアベンチレポートによると、TikTokのエンゲージメント率の中央値は5.69%で、ソーシャルメディア業界でトップであることがわかりました。
LinkedInにおいてもオーガニック・リーチ低下問題は、多くのマーケターの間で嘆かれている話題の1つです。これはコロナパンデミックの間でLinkedIn人気が世界的に急増したことや、LinkedInによる収益化の取り組みによって、有料コンテンツに投資する企業が増えたことに起因していると言われています。
次の項目では、直面する下落トレンドを乗り越えるための効果的な対処法をご紹介します。
オーガニック・リーチ低下への対策法
各ソーシャルメディアのオーガニック・リーチが縮小するにつれて、せっかく魅力的なコンテンツを作成したところで、ユーザーにコンテンツを見てもらうことが困難になってきます。しかし、諦めてはいけません。企業やブランドがこの変化を乗り切るための、ヒントをいくつかご紹介します。
自社のターゲットを明確にして、最適な戦略を立てる
ソーシャルメディアのオーガニック・リーチを増やすためには、やはり戦略的にソーシャルメディアを運用することが大切です。まずは、自社のターゲットユーザーへの理解を深め、ユーザーに最適なSNS戦略を策定しましょう。
- 投稿内容はターゲットに刺さる内容でしょうか?
- 投稿頻度を増やすためにコンテンツの質を下げては意味がありません。最適な投稿頻度やコンテンツ内容などのバランスを考慮していますか?
- 投稿時間はターゲットの年齢や性別などの属性の他、プラットフォームによって異なる特性などを考慮していますか?
プラットフォーム上の全ユーザーに対しての投稿ではなく、自社のビジネスにとって重要な人、つまり、見込み客・顧客・ファンにしっかりと焦点を当てましょう。投稿に反応してくれるユーザーを分析し、関係を強化できる施策や、ユーザーが興味を示したコンテンツを増やすことに注力します。まずは「ターゲットとなるユーザーが、SNS上でどんな行動を取っているか」に徹底的にフォーカスしてみましょう。
アルゴリズム・仕組みを理解する
投稿したコンテンツがユーザーに届くかどうかは、各プラットフォームのアルゴリズムが大きく影響を及ぼします。企業やブランドのメッセージを効果的にユーザーに届けるために、自社に最適なソーシャルメディアを選択し、そのプラットフォームのアルゴリズムをしっかり理解したうえで戦略を立て、運用していく必要があります。
Facebookのアルゴリズムは、視聴ユーザーが最も興味を持ち、関与する可能性の高いものを予測し、どの投稿をどのような順序で表示させるかを決定します。この予測は、最近行ったフォローやいいね、関与したかなどさまざまな要素に基づいて決定されてます。
2023年、現時点でのFacebookアルゴリズムは以下の3つのシグナルに基づいて、「コンテンツ⇔ユーザーの関連性」を決定しています。
- 投稿者:友人や企業など過去にどの程度やり取りを行ったかを重視
- コンテンツの種類:ユーザーがよく視聴するコンテンツの種類(動画 or 画像など)
- 投稿とのインタラクション:頻繁にコミュニケーションを取るアカウントのエンゲージメントの高い投稿を優先させる
主にこのようなシグナルに基づいてコンテンツはランク付けされ、オーガニック投稿を行うと、誰の・どこに表示させるかを2秒ほどで瞬時に決定します。Facebookには、上記以外にもユーザーに最も関連性があると思われる要素を判断するためのシグナルが数千も存在していると言われていますが、まずは上記の3つを意識してコンテンツ制作・投稿を行ってみてください。
<Meta_Facebookのフィードランキングシステム>
Instagramにはユーザーのアプリ上の行動予測や、何を表示しないかを見分ける単一のアルゴリズムは存在していません。フィード、ストーリー、検索、リールなど、ユーザーの使用方法に合わせた独自のアルゴリズムが機能します。
以下は、機能ごとのランク付けに利用されている要素です。
- フィード:ユーザーの活動(いいね!・共有・保存・コメントした投稿など)、投稿の人気度、いいね!・コメント・共有・保存された速さ・投稿された日付や内容、他ユーザーとのやり取りした回数、お互いの投稿にコメントするかどうかなどが重要視されています。
- ストーリー:閲覧履歴、エンゲージメント、投稿者とユーザーの関係性、家族や友人としてどの程度繋がっているかなどが影響します。
- 検索:フォローしていないアカウントから、新しい発見ができるように設計されています。そのため、投稿がいいね!、コメント、共有、保存された回数や速さが最重要視されます。さらに、過去に検索でどのような操作を行ったかも重要なシグナルの1つです。
- リール:「検索」と同様に、ユーザーがリール内で新しい発見ができるように設計されています。そのため、ユーザーに表示されるコンテンツのほとんどは、フォローされていないアカウントからのリール動画が表示されるように設計されています。リールへのいいね!、保存、共有、コメントなどが最重要視されており、さらに、最後まで視聴する可能性なども重要視しています。
Instagramを効果的に運用するには、コンテンツを増やすことが推奨されていますが、再投稿された動画や他ユーザーが自分のフィードで公開しているコンテンツの再投稿などは、ランクが低下し、おすすめとしてユーザーに表示される可能性が低くなるため注意が必要です。
こちらのブログでもご紹介したように、2023年以降のTikTokはこれまで以上に “エンターテイメント性” が求められています。エンターテインメント性とは、注目を集めるために無理に注意をひくのではなく、魅力的で楽しい動画である必要があります。TikTok広告であっても”面白さ”は、評価に反映されます。
ここで言う面白さというのは、以下のように定義されています。
“Entertaining ads are defined using a composite score with 7 unique inputs (e.g., excitement, shareability, entertainment, rewatchability, likable, etc.) and classified as either high, medium, or low / エンターテイメント広告は、7 つの固有のインプット (興奮、共有しやすさ、エンターテイメント、再視聴可能性、好感度など) を含む複合スコアを使用して定義され、高、中、低のいずれかに分類されます。”
TikTokでは単純に商品の良さを説明したり、企業理念を語るだけのコンテンツだけではなく、視聴者にとって「喜びのためのスペースを作る」意識を持つことが重要となってきます。
さらに、TikTokが公表しているデータによると、有料広告だけでコンテンツがブーストされる可能性は低く、「ペイドメディア+オーガニックコンテンツ」を組み合わせた「Always Engaged Strategy」が推奨されています。Branded Hashtag Challenges において、オーガニック投稿を組み合わせたブランドのROASが2倍近く増加したことを確認しています。
プラットフォームの最新トレンドを理解する
ソーシャルメディアマーケティングをする際は、各メディアの特性とメディアごとに違うトレンドを意識した展開をしていくことが大切です。とくにソーシャルメディアにおけるトレンドは、Googleの仕様を変更させてしまうほどのインパクトがあり、非常に大きな影響力を持っています。
例えば、Facebook。こちらのブログでもお伝えしているように、2023年におけるFacebookリールの再生数は、2022年と比較しても2倍以上、リールのシェアは約6か月間で2倍となりました。さらに、Facebookにおける動画投稿は、静止画像と比べて135%のエンゲージメントが高くなる傾向がみられました。さらに、Facebookの創始者であるマーク・ザッカーバーグ氏も「Facebookでは、今後リールに焦点を当てていく」と、発言していることから、今後、Facebookを活用している企業は「リール」がポイントであることがわかります。
<Facebook Reels >
Instagramのクリエーターマーケティングマネージャーである Brooke DeVard Ozaydinli 氏は、自分のInstagramアカウントに「Instagram成功のヒント」を投稿しており、そこには小さい文字で「”他のアプリに投稿したコンテンツはInstagramリールには投稿してはならない”」の文字が記載されており、海外SNSマーケターの間で話題となりました。Instagramでは、明らかに再利用されたコンテンツや低品質コンテンツは優先順位が下がるため、複数のソーシャルメディアを同時に運用している場合などは注意が必要となります。
このように、最適なプラットフォームの最新トレンドを把握しておくことは、ユーザーにたどり着く近道の1つです。
高品質で価値のあるコンテンツを作成する
情報過多な現在社会において、常に様々な情報に晒されているユーザーは、ダイレクトに「広告」と感じるものは、無意識に避ける傾向にあります。ユーザーを惹きつける魅力的なコンテンツは、人々にアクセスする理由を与え、企業やブランドに付加価値を与えます。価値あるコンテンツを届けることで、ブランドに対する好感度を高め、企業にとってより多くのビジネスチャンスを生み出す可能性があります。
コンテンツを制作する際は、消費者行動はもちろんのこと人間心理やデザインテクニックなどを取り入れることで、より効果が発揮され、ユーザーを惹きつけ、企業やブランドの価値を創造することが出来ます。そのため制作するコンテンツは、ターゲットとなるユーザーを念頭に「見るべき価値あるもの」であり、ユーザーの具体的な「ニーズ」を満たすものでなければいけません。言い換えれば、マーケターは価値あるコンテンツを作成するにはどうすればいいのか、「コンテンツの価値」についてしっかりと理解しておく必要があるのです。
- ユーザーの好みは理解していますか?
- ユーザーの心を引き込むストーリーテリングを活用していますか?
- さまざまなコンテンツ形式を試していますか?
コミュニティ構築に注力する
近年、「消費」に対する欲求が変化しています。ただ単純に「優れた商品やサービスを手に入れたい」というだけではなく、企業やブランドとの「人間的な繋がり」を求め、自らの購買行動が自分の価値観やアイデンティティを基準に考える傾向がますます強まっています。
コミュニティ構築には、既存ユーザーの声に耳を傾け、その「ニーズ(Needs)」や「ウォンツ(Wants)」を満たすことに軸足を置き、顧客との長期的な繋がりを保つことを目的とし運用します。コミュニティを構築することで、ブランドと顧客との間にインタラクティブな関係を育み、満足したユーザーがブランドの最大の支持者となり「レビュー・体験談・クチコミ」など、コミュニティに所属するメンバー自らが情報発信者となって、商品やサービスの魅力をメンバーに伝播していきます。
ソーシャルメディア上でユーザー生成コンテンツ(UGC)や会話への参加を促したり、コメントや質問に迅速に対応するなど、ユーザーと積極的に関わりましょう。
有料のSNS広告を試してみる
プラットフォームにもよりますが、既にオーガニックリーチ低下の影響を受けるのであれば、有料広告の利用を検討しましょう。SNS広告はそのソーシャルメディアを利用しているユーザーの年齢・地域・性別・興味関心などの属性以外に、フォローしているSNSアカウントのカテゴリをターゲットしてに広告を配信することも可能なため、自社のターゲットに近いユーザーに的確にアプローチすることが可能です。
SNS広告を配信することは、「予算のある大きなブランドしかできない」というイメージを持っている方もいるかもしれません。しかし、戦略を持ちターゲティングやキャンペーン設定をしていれば、少額でも効果を得られるケースも少なくありません。ただ、TikTokの公式サイトで言及されているように、オーガニック投稿と広告キャンペーンを組み合わせることが推奨されていたり、リスティング広告などと比較すると、短期的な売上を達成することが難しい場合もあります。効果的にSNSを活用した施策を実施したい場合は、緻密な戦略設計が必要となります。
さいごに
TikTokを除いては、現在ほとんどのソーシャルメディアのオーガニック・リーチは低下傾向にあります。今後、SNSマーケティングに取り組む企業間の競争が激化することで、ソーシャルメディアでのオーガニック投稿によるリーチ獲得は困難になるでしょう。そのことを想定して、戦略的にソーシャルメディアを運用していくことが重要になってきます。
SNSマーケティングは、プラットフォームの特性をしっかりと理解した活用をすることで、ビジネスを大きく発展させるきっかけを作ることができます。「目標設定、戦略、そして最適なコンテンツ」を踏まえてソーシャルメディアをマーケティングにフル活用していきましょう!
海外向けSNSマーケティングで困ったことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。
吉田 真帆 マーケティング部 プランナー
コンテンツ・SNS・メールマーケティングを統括しています。 オーストラリア永住権を取得したにも関わらず、思いもよらず日本に帰国。日本9年を経て、現在はシンガポールからフルリモート中。