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2025年01月24日

「感情」を活用したデジタルマーケティング戦略
~顧客とのつながりを構築しブランドロイヤリティを高める方法~

 

目次

 

情報が氾濫するデジタルの世界では、消費者の「注目」を集めるために各企業が試行錯誤を繰り返しています。しかし、単に注目を集めるだけでは、十分ではありません。

競争が激化するデジタル市場で顧客と長期的に良好な関係を構築するためには、心に残る感情的な繋がりを構築する必要があります。近年、人間の感情を分析するAIが登場するなど、感情は単なる補助的要ではなく、意思決定や行動を大きく左右する強力なトリガーとなります。

本記事では感情の重要性を理解し、どのようにマーケティングに取り入れるかについて、具体的な方法を探っていきます。

 

デジタルマーケティングにおける感情の重要性

感情は、意思決定プロセスの強力な原動力です。神経学の研究では、感情が意思決定に重要な役割を果たすことが裏付けられています。

感情に訴求するキャンペーンは、消費者の心に響き、消費者との深いつながりを形成し、信頼や行動を促進します。メッセージの共有、商品やサービスへの登録、最終的には商品の購入といった、人間の「行動」を引き起こすための極めて重要な役割を果たすのが「感情」です。

また、感情は記憶と強力に結びつきます。感情的な経験は、ポジティブでもネガティブでも、より印象的なものとして記憶に留まりやすくなります。感情的なコンテンツやメッセージは、視覚的な認識を高め、効果を最大化することができます。

感情は、私たちが認識している以上に意思決定を左右します。感情の心理的影響を理解することで、消費者の心に響く効果的なプロモーション戦略を作成するために役立ちます。

次項では、「感情」が人間の脳内でどのように生まれるのかをみていきましょう。

 

人間の脳を支配する7つの感情プロセス

顧客の意思決定プロセスやブランドエンゲージメントにおいて、「感情」が大きな役割を果たすため、マーケタ―にとって感情への理解を深めることは欠かせない要素です。現在、学術的には、感情の種類に関する明確な合意はないものの、6~8種類の基本感情を軸とした理論や次元モデル、文化的多様性を考慮した理論が提案されています。

神経科学者のアントニオ・ダマシオ(Antonio Damasio)とタネア・カルヴァーリョ(Taneia D. Carvalho)が執筆したこの論文では、感情は感覚と動機/駆動の組み合わせに関連するものを表しています。


<釈迦は、感情は「無常」、変化し続ける一時的な現象に過ぎないと説いています。完全に悟って(理解して)いますね。>

TED Talkにも登壇されているのでご存じの方も多いかと思いますが、感情研究の分野に多大な貢献をした情動神経科学者のヤーク・パンツェップ氏(Jaak Panksepp)は、人間の脳を支配する7つの感情プロセスがあることを特定しました。このプロセスは特定の脳領域に基づき、感情体験>行動>身体反応を引き起こすと言われています。

SEEKING:探求、熱意、関心

探索、新しいものへの興味関心、資源の欲求に関連する感情で脳の報酬系神経物質ドーパミンによって活性化されます。目標や機械を追求するエネルギー。

FEAR:恐怖、不安

危険や脅威にによって活性化される感情です。脳の生存システムに関連し、有害なものを避けるために駆動されます。不安や恐怖の感情を経験すると、危険を認識し、心拍数の増加や発汗などの身体的変化が体に現れる場合もあります。

RAGE:怒り

脅威や不正を認識されるとこの領域が刺激され、脳の防御システムによって、自分自身と資源を守るための反応が誘発されます。

LUST:欲望、愛着

性的欲求や魅力に関連した感情で、脳の覚醒システムによって駆動されます。欲望の感情を経験すると、肉体的・性的快楽に対する行動を促進します。人間の正常な行動の一つです。

CARE:育成、守りたい

脳の愛着システムによって駆動され、社会的つながりを構築、維持するために役立ちます。子育てや他社への愛着行動を促し、共同体意識を築くために役立つ重要な要素です。

PANIC:悲しみ

脳の分離不安システムに関連し、心理的孤独や分離をきっかけに駆動されます。別れや資源の喪失に対処するための反応です。

PLAY/喜び

脳の社会関与システム領域によって駆動され、喜び、遊び心、社会的交流と関連する感情です。この感情を経験すると、幸せでオープンマインドになり、他社との交流や社会的スキルの学習などの行動を促します。

これらの感情を引き起こす神経回路や神経物質は、ほ乳類はほぼ同じ脳内領域に組み込まれており、感情的な行動を生み出す役割を担っていると述べています。

 

デジタルマーケティングに「感情」を取り入れるメリット

デジタルマーケティングにおいて、感情を取り入れることは単なる流行ではなく、消費者との深い関係を築き、ブランド価値を高めるための重要な要素です。情報が氾濫する現代では、単に目を引くだけではなく、心に響く体験を提供することが求められます。感情を活用することがデジタルマーケティングにどのような具体的なメリットをもたらすのかを詳しく見ていきましょう。

顧客と本物のつながりを構築する

感情は消費者の記憶に長く残り、ブランドとの深い結びつきを形成します。感情レベルで共鳴するコンテンツを作成することで、取引を超えた信頼と共感が生まれます。顧客はブランドに対して親近感を抱き、長期的なブランドロイヤルティを形成する基盤となります。

記憶に残るブランド体験

先述したように、感情は記憶と強力に結びつきます。感情を呼び起こすコンテンツは、消費者に強い印象を与え記憶に留まりやすくなります。感情に結びついた体験は、ブランドの想起を促進し、他の競合ブランドとの差別化を可能にします。

競争優位性の獲得

感情に基づくコンテンツは、ソーシャルメディアでの共有や拡散において強い影響力を持つことが分かっています。

特に、ストーリーテリングや視覚的に魅力的なコンテンツは、オーディエンスとの感情的なつながりを育む上で効果的です。普遍的な感情を軸にした共感を呼び起こすキャンペーンを展開し、顧客と感情的な繋がりを構築することで、競争で優位に立つことが可能です。実際に、ニールセンが実施した調査では、より感情的反応を促した広告は、売り上げが最大で23%も増加する可能性があることがわかりました。

 

 

デジタルマーケティングに「感情」を取り入れる方法

business meeting 画像

デジタルマーケティングにおいて、「感情」を効果的に取り入れ、ターゲットユーザーと強固な信頼関係を構築するために有効なアプローチをご紹介します。

感情を引き出す要素を明確にする

ターゲットとなるユーザーにどのような感情を喚起したいかを明確にすることが重要です。

新製品に対する期待感を高めたいのか、成功体験に感動してもらいたいのか、または選択への安心感を与えたいのか、ユーザーに持ってもらいたい感情を具体的に設定しましょう。このプロセスにより、ユーザーの感情に深く訴えかけるコンテンツを作成することができ、ブランドのメッセージがより強く響くでしょう。

ストーリーテリングの効果を活用する

ストーリーテリングは、ユーザーとの感情的なつながりを強化するための強力な手法の一つです。

表面的な内容にとどまらず、ターゲットとなるユーザーの核となる「価値観」や「願望」にまで踏み込んだストーリーを作ることで、課題や成功といった共通の体験を描くことで、ブランドと消費者の間に深い感情的な結びつきを構築します。

ビジュアルコンテンツで感情を刺激する

視認性の高いコンテンツは、より多くの情報を伝えるでき、画像や動画といったビジュアルコンテンツは、言葉だけでは伝えきれない感情を表現する優れた方法です。

人間の脳は、テキストや音声と比べ、画像を6万倍も早く処理が出来ることもわかっています。また、ビジュアルコンテンツは単語として得た情報(テキストなど)よりも、長く脳に保存されることが科学的に証明されています。

情報過多な現代社会において、ユーザーは瞬時に情報を取捨選択を行います。特にZ世代は素早く情報を取捨選択する傾向があり、その時間はわずか「8秒」程度だそうです。これは、ミレニアル世代と比較して4秒も短く、私たちマーケターは非常に短い時間でメッセージを伝える必要があり、ビジュアルコンテンツは有効な方法の一つです。

ビジュアルコンテンツの重要性
<Forbus_Generation Z: 10 Stats From SXSW You Need To Know>

ユーザー生成コンテンツ(UGC)を取り入れる

実際の顧客が作成したコンテンツを活用することで、ブランドに対する信頼感や親近感を高めることができます。

たとえば、顧客のレビューや推薦文、リアルな顧客のSNS投稿などのコンテンツは、他の潜在顧客にとっても強い共感を生み、ブランドへの好意的な感情を育むきっかけとなります。

誠実で本物のコミュニケーションを心がける

ユーザーの信頼を獲得するには、売上を意識した表面的なやり取りではなく、誠実な対話を重視することが必要です。
たとえば、ソーシャルメディアやメールを通じて顧客の声に丁寧に対応することで、ブランドへの信頼感を高めることができます。また、ブランドの価値観やビジョンを明確にし、それを透明性を持って伝えることで、より深いレベルでの信頼関係を築くことが可能です。

特にミレニアル世代やZ世代といった若者層は、広告を嫌い、積極的に広告を避け、「体験価値やライフスタイル」を重視する傾向にあります。

感情分析AIを活用する

近年、AIによる感情分析技術の進歩により、従来では難しかった感情の微妙なニュアンスの把握が可能になっています。AIは、ユーザーが入力したテキストデータ、顔の表情、声のトーン、さらには脳波など、多様な情報を解析して感情を推定します。

近年、AIによる感情分析技術の進歩により、従来では難しかった感情の微妙なニュアンスの把握が可能になってきています。AIによる感情分析は、ユーザーが入力したテキストデータや顔の表情、声のトーンや脳波からも感情を解析して感情を推定できるようになってきました。

AIによる感情分析の強みは、人間以上に微妙なニュアンスから情報を読み取れることや日々の膨大なデータから情報を収集して学習していくため、機械学習型のチャットボットより、はるかに高い対応力を備えています。

AIを顧客レビューやソーシャルメディア投稿の解析に活用することで、顧客の感情的な傾向やニーズを明確に把握できます。これにより、顧客の期待に応えるだけでなく、それを超える体験を提供するマーケティング施策を設計することが可能になります。

 

さいごに

「感情」を活用したデジタルマーケティングは、単に注目を集めるだけではなく、消費者との本物のつながりを生み出します。人々が感情を基盤に行動し、記憶を形成するという科学的事実に基づき、感情的なトリガーを適切に活用することが成功の鍵となります。

感情を取り入れたマーケティング戦略は、ブランドが顧客の心に響くメッセージを届け、競争の激しい市場で差別化を図るための有力な手段です。ブランドの価値観を尊重し、本物のコミュニケーションを大切にしながら、感情の力を活用して永続的な顧客関係を築くことを目指しましょう!

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参考文献①:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5573739/#B39
参考文献②:https://www.nature.com/articles/nrn3403

吉田 真帆

吉田 真帆 マーケティング部 プランナー

コンテンツ・SNS・メールマーケティングを統括しています。 オーストラリア永住権を取得したにも関わらず、思いもよらず日本に帰国。日本9年を経て、現在はシンガポールからフルリモート中。