中国「BAT」デジタル市場最前線
~Baidu、Alibaba、Tencentとは?~
2019年10月、2019年7~9月期における中国の経済成長率が6.0%となったことが発表されました。多くのメディアは中国の経済成長の減速がいよいよ本格化してきたと報道しましたが、世界の経済大国の中で、いまだに6.0%という高い経済成長率を示しているのは中国ぐらいです。日本は同時期に0.89%でした。
中国は、数十年前には、広大な土地に眠っている資源や安価な人件費が魅力の国でしたが、急激な経済成長とともにテクノロジーが大きく進歩し、現在は「世界を代表するIT大国」といわれるまでに成長しました。そんな中国においてIT業界をけん引しているのが、『BAT』と呼ばれる中国の3つのIT企業(バイドゥ、アリババ、テンセント)です。
<Statista:「中国の経済成長率の推移」>
本記事では、世界で注目を集める中国のデジタル巨人『BAT』について解説します。
中国のデジタル巨人『BAT』とは
『BAT』とは中国のIT業界をけん引している3つの大企業、バイドゥ(Baidu:百度)、アリババ(Alibaba:阿里巴巴)、テンセント(Tencent:騰訊)の頭文字を取ったものです。
以前は「バイドゥ=検索エンジン」、「アリババ=EC」、「テンセント=SNS」とそれぞれの得意分野を活かしながら住み分けが図られていたのですが、現在では各企業が多方面へのビジネスを展開し互いにしのぎを削っています。
下の図は、中国人がモバイルを使う際に利用するアプリやサービスの内訳を示したものですが、なんと75%以上の時間をこの3社が手がけるサービスに費やしているといわれており、このことからも中国国内におけるBATの存在感を伺い知ることができるでしょう。
<BUSINESS INSIDER:中国人がモバイルを利用する際の「BATサービスの比率」>
BATが中国国内にもたらす影響は計り知れません。また、現在は中国国内だけでなく、世界経済に大きな影響を与えるまでに成長し、世界の経済ニュースに連日名を連ねるようになりました。
日本にほど近い中国にあって、世界の大企業の仲間入りを果たしたBATに興味をお持ちの方も多いと思います。ここからは、世界も注目するBATの各企業について紹介していきます。
バイドゥ/ Baidu / 百度
2000年1月に「Lobin Li」によって創設されたバイドゥは「検索エンジン」の分野で大きな成功を収めました。中国では、政府が行う「グレートファイアウォール」というネット検閲システムにより海外ネットワークなどを気軽に利用することができないため、中国独自の検索エンジンが開発され成長しました。その中でも、中国国民に最も利用されているといわれているのがバイドゥです。
中国で約70%のシェアを占め、世界における利用者数はGoogleに次ぐ第2位、月間のアクティブユーザー数は6億人を超えるといわれています。中国でマーケティングを行う際には、バイドゥへの広告掲載とSEOが非常に効果的とされており、中国企業はもちろん、インバウンドに携わる日本企業にとっても重要な位置づけの検索エンジンです。
バイドゥは2005年にナスダックに上場した後、検索エンジン機能の拡張や多方面へのサービス拡大を図り順調に収益を伸ばしてきましたが、最近、初めて赤字に転落したというニュースが報道されました。一部のネットユーザーが新設の検索エンジンに流れていったことや、経営戦略のミスなども指摘されていますが、バイドゥは現在、近い将来にビジネスの核となるであろう自動車の自動運転技術を開発する「アポロ計画」に注力しており、今回の赤字はアポロ計画への出費が大きく影響していると関係者は話しています。計画通りに進めば、2021年には公道での自動車の自動運転をスタートさせるとのこと。
<2021年に公道での自動運転の開始を計画している(Apolloより)>
現在の時価総額は362億ドル。後に紹介する2つの企業と比べると数値の上では離されてしまった感がありますが、アポロ計画を始めとした新たな戦略により再び勢いを取り戻し、確固たる地位を築けるかどうかに注目が集まります。
バイドゥを活用したインバウンド関連のマーケティングに興味のある方は、過去に配信したこちらの記事をご参照ください。
アリババ / Alibaba / 阿里巴巴
1999年に馬雲(Jack Ma)氏によって設立されたアリババは、主に「EC」の分野で成功を収めた企業です。創業とともに開始したB2B向けのECサイト「Alibaba.com」は、話題性はあったものの信頼性に乏しく、最初の数年間は苦戦を強いられます。しかし、国内外の企業から徐々に信頼を得られるようになり、2003年ごろからビジネスが軌道に乗り始めます。
2003年にスタートした消費者向けのECサイト「淘宝網(タオバオ)」は、事業者の出店手数料を無料にするなどのプロモーションが功を奏し、出店数が増えるにつれて利用者も急激に増加しました。その後も、中国国内向けの個人消費者向けECの「天猫(Tモール)」、オンライン決済サービス「支付宝(アリペイ)」などのサービスを次々と開始し、大きな成功を収めます。
現在は、EC関連の企業だけでも10ものサイトを運営する巨大グループに成長し、中国のECサイト業界において不動の地位を築いています。
既述のように、アリババの最大の強みはECですが、上記の図からもわかるように、現在は多方面のジャンルにビジネスを拡大しています。特に今注目されているのが、オンライン決済サービスのAlipay(アリペイ)で、中国国内の店舗はもちろんのこと、中国観光客をターゲットにした日本や韓国の店舗でもAlipayが導入されています。2019年の4~6月期の売上高は、前年比から42%増の163億ドルと絶好調。現在の時価総額は4326億ドルで、世界第7位の位置につけています。東南アジアで人気のECサイト「LAZADA」を買収したことからも、今後世界各国へビジネスを展開していくのではないかと予想されています。
テンセント / Tencent / 騰訊
<テンセント:WeChat>
1998年に「Ma Huateng」によって創設されたテンセントは、主に「SNS」と「ゲーム」の分野で大きな成長を遂げた企業です。中国のFacebookと呼ばれる「Qzone」、無料通話やメールのやり取りが可能な中国版LINEと呼ばれる「WeChat」は、中国人の大半が利用するアプリとして知られており、2018年現在、Qzoneは8億人、WeChatは10億8000万人のアクティブユーザーがいるといわれています。
また巨額の資本を元に世界各国のゲーム会社への出資および買収を積極的に行い、大きな収益を上げています。最近では、オリジナルの映画やアニメ制作も手がけるなど、新しい分野の開発にも積極的です。また、オンライン決済サービス「WeChat Pay」は、人気アプリ「WeChat」に付随した機能であることから中国国民に瞬く間に受け入れられ、現在も利用者をグングンと伸ばしています。さらにWeChat上でECサイト「JD.com(京東商城)」をスタートさせたことで、アリババが得意とするEC分野へも正式に参入しました。
現在の時価総額は、アリババに次ぐ世界8位で4077億ドル。今後、アリババと激しい争いが繰り広げられると予想されています。
終わりに
BATの3つの企業が中国国内でどれだけ大きな影響を及ぼしているのか、お分かりいただけたかと思います。現在、中国の多くの企業は、これら3つの企業が提供している各サービスを効果的に利用しながらビジネスの拡大を図っています。逆にいえば、BATが提供するサービス抜きでの中国マーケティングの成功は難しいといえるでしょう。
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吉田 真帆 マーケティング部 プランナー
コンテンツ・SNS・メールマーケティングを統括しています。 オーストラリア永住権を取得したにも関わらず、思いもよらず日本に帰国。日本9年を経て、現在はシンガポールからフルリモート中。