国別ユーザー、嗜好性の違い
~各国の異なる”嗜好性”を理解しよう~
新型コロナウィルスにより壊滅的なダメージが生じたインバウンド業界ですが、英国イングランドやデンマークは、コロナ規制の完全撤廃、フランスやスウェーデン、イタリアも規制撤廃や緩和の動きを見せるなど、世界各国はウィズコロナ時代へ突入すべく、それぞれの出口戦略を模索し始めています。(FRAGOMEN _ Immigration Update : Coronavirus 8-MAR-2022 )
まだ先行きは不透明の状態ではありますが、来たるべきアフターコロナ時代のインバウンド需要を取りこぼさないためにも、今から多言語デジタルマーケティングを戦略的に準備をしておくことは重要です。
今回は、コロナ以前の過去の訪日観光客の推移などを振り返りながら、日本のインバウンドに大きな影響を与えていた複数の国に焦点を絞り、国別の観光客の特徴や、国ごとの特徴的な嗜好性の違いをご紹介します。各国の嗜好性を理解し、海外デジタルマーケティングにどう活用出来るのかをみていきましょう。
※この記事は、過去に公開された記事を、現在の情勢を含め更新したものです。
コロナ以前のインバウンド観光客の推移
2019年12月に発生した新型コロナウィルスの影響により、世界中の国境は閉鎖され、日本のインバウンド市場も大打撃を受けました。しかし、新型コロナウィルスが本格的に流行する以前は、インバウンド市場は毎年著しい成長をみせており、2011年の622万人から7年連続増加し、2019年には過去最高となる3,188万人に達しました。(リーマンショック後の数年に上下しましたが、1999年頃からは毎年増加し続けていました。)
<日本政府観光局(JNTO)_「日本の観光統計データ」を元にインフォキュービック・ジャパンで作成>
日本政策投資銀行と日本交通公社が実施した、アジア・欧米豪の12か国に実施したオンライン調査によると、「コロナ終息後に海外旅行したい国や地域」で日本は、堂々の一位という結果となりました。
2018年、訪日外国人の消費額が 4.5 兆円を超えていたことを考慮しても、インバウンドの復活は日本の成長戦略の一つであることは明確であり、コロナ終息後は「インバウンド需要の急速な回復」が見込まれています。
国土交通省「インバウンド消費動向調査」
国によって異なる「嗜好性の違い」
来たるべきアフターコロナ時代のインバウンド需要を取りこぼさないためにも、自社ビジネスのターゲットとなる国の、嗜好性やインバウンド拡大に向けて特筆すべき点などをご紹介します。
中国
14億人という世界最大人口を誇るのが中国です。
中国のお正月と称される「春節」(1月下旬から2月上旬)と10月上旬の大型連休「国慶節」には、中国から多くの観光客が日本にやってきます。国別に見た訪日外国人旅行消費額でもトップをいく中国。今後もインバウンドのターゲットの中心となると予想されています。
中国人の嗜好性(体験・食・文化など)
近年の急激な経済成長の恩恵を受け、多くの富裕層が誕生している中国。中国の富裕層には、商品やサービスの“質”に非常にこだわる人々が多く、「中国人の爆買い」で知られるように、質の良い日本産の製品を買い占めることで一時期注目を集めました。中国人の爆買いに関しては一時と比較して勢いは衰えましたが、それでも中国人のショッピング好きは現在も健在で、2019年、観光目的に日本に訪れる人々の63.7%が「ショッピングを楽しみにしている」と回答しています(1位:ショッピング63.7%、2位:日本食61.5%、3位:自然・景観地観光55.3%)。中国は広大な土地を有しているため、「食」の好みは様々です。中国の特徴的な料理は以下の通りです。
「北京料理」
冬の寒さを乗り越えるため、しっかりした味付けの料理や身体を温める火鍋などが代表。
「上海料理」
海に面した上海で人気の料理で、新鮮な魚介類を使ったさっぱりした味付けが特徴。
「四川料理」
トウガラシや山椒などをつかったしびれる辛さが特徴。濃い味付けのものが多い。
「広東料理」
中国の食の中心ともいえる広州を含むエリアで人気の広東料理は、アワビやふかひれといった高級食材を使った素材の持ち味を活かしたあっさりめの味付けが特徴。
中国人は様々な味に慣れており、多様な味を楽しめる日本料理への興味関心が非常に高い傾向があります。また中国では、「特定の宗教を持たない人」が多いのが他国とは異なる特徴の一つです。しかし、伝統的なしきたりや価値観を尊重する傾向にあります。そのため古くからお祝いの席で用いられ、幸運のイメージと結びついた「赤色」が中国人には好まれます。中国人をターゲットとした多言語サイト制作を行う際には、色を効果的に利用することが重要となりそうです。
インバウンド拡大に向けて特筆すべき点
特徴的な点として、中国から観光目的で訪れる中国人の男女比は、「男性:35.4%、女性:64.6%」と圧倒的に女性観光客が多いという事実が挙げられます。(2018年資料)
また、2011年には、観光目的での訪問の際の旅行の手続きに関し、「個別手配が23.7%、団体ツアー76.3%」でしたが、2018年には、「個別手配54.6%、旅程の一部にツアーを利用9.2%、団体ツアー36.2%」と、個別手配の割合が非常に高くなっていることにも注目すべき点でしょう。
インバウンド再開後は「中国人リピーターをいかに取り込むか」が、インバウンド事業の成功に大きくかかわってくるといえるでしょう。
台湾
親日国として知られる台湾。
台湾人の旅行先は中国と日本がツートップを占めており、インバウンドの再開後は多くの台湾人が日本に訪問すると考えられています。驚くべきは台湾からの「リピーター率の高さ」で、2018年のデータでは「約83%がリピーターであった」と報告されています。訪日外国人旅行消費額でも堂々の第3位にランクインしていることからも、日本のインバウンド事業にとって注目したい国の一つです。
台湾人の嗜好性(体験・食・文化など)
台湾人の観光目的としては、「日本食を食べること」が第1位にランクインしています(1位:日本食63.9%、2位:ショッピング57.4%、3位:自然・景観地観光53.5%)。
それもそのはず、台湾人は食べることが大好きな国民性といわれており、台湾では「呷飯皇帝大」(食べることの地位は皇帝のように高い)という諺まであるほどです。
台湾には、日本料理店が数多くあります。しかし、多くのお店では、台湾人向けに味の調整が行われています。食へのこだわりが強い台湾人は、日本を訪れた際には本場の味を求めて日本のレストランを訪問します。また、台湾では街のいたるところに屋台が並んでおり、様々な食べ物を少しずつ食べることを好む傾向があります。そのため、日本においても同じような雰囲気の街や屋台での食べ歩きができる地域を好むともいわれています。
インバウンド拡大に向けて特筆すべき点
日本旅行中の「レストランの決定」に関しては、各旅行会社や日本政府が運営するWebサイトではなく、「個人ブログ」から多くの情報を得ていることに注目すべきです。リピーターが増えてきたことで、東京や京都、大阪などの主要都市だけでなく、多様な体験を求めて日本各地へと訪問先が拡大しているのが台湾旅行者の特徴です沖縄や北海道など、食や自然に関する新しい体験が期待できる地域の人気が徐々に高まっていることにも注目する必要があるでしょう。
タイ
タイ人の旅行先としては近隣のマレーシア、ラオス、ミャンマーが人気ですが、4番目にランクインしているのが日本です。ここ数年で、タイからの訪日客数が大きく増加しているのです。タイ人は親日家が多いことでも知られており、いつか日本に旅行してみたいと考える人々が多くいます。
訪日外国人旅行消費額でも、東南アジアでトップの6位にランクインしており、今後の日本のインバウンド事情に大きな影響を及ぼすであろう国として注目を集めています。
タイ人の嗜好性(体験・食・文化など)
タイ人の観光目的としては、「日本食を食べること」「ショッピング」「自然・景観地観光」など、他の国からの旅行者と同様の理由が続きますが、注目すべきは「日本の歴史・伝統文化体験」や「日本の日常生活体験」「日本のポップカルチャーを楽しむ」などの項目が高い数値を記録していることです。タイでは現在、日本の文化(特にアニメや漫画)が非常に人気を集めており、これらの理由から日本に行きたいと考えている人々も多くいます。
また、タイは仏教徒が多い国であり、至る所に寺院があります。他の国の人々の間でも日本のお寺や神社は人気のスポットですが、タイ人にとっては宗教の関連もあり、ぜひ行ってみたいスポットとして挙げられるのです。また、同じく仏教が生活のベースに根差している日本文化に興味を持つ人も多く、生活体験などを希望する人々が多いのも特徴です。
インバウンド拡大に向けて特筆すべき点
タイ人が日本について情報を得る際、数年前は日本を訪問したことのある親戚や家族から情報を得ることが一般的でしたが、徐々に、インターネットを通して情報を得る方法に変わってきています。タイは東南アジアの中でも英語が得意ではない国として知られていますが、タイ語で日本の情報を得られるサイトは限られており、日本政府が運営する多言語サイトなどが人気の情報源です。今後ますます増加すると考えられるタイ人をターゲットとし、多言語サイト制作に取り組むのも一つの戦略といえるでしょう。
タイ人はSNSなどで「写真や動画をシェアするのが好き」という特徴があります。タイで人気のSNSは、日本発の「LINE」ということもあり、日本で行うSNSマーケティングと類似した形でのマーケティングが行えるという点で、海外デジタルマーケティングの初心者であっても比較的参入しやすいフィールドといえるでしょう。
アメリカ
アメリカからのインバウンド客は、2011年以降、約15万人ずつ増加しており、今後も順調に伸びていくのではないかと考えられています。また、アメリカ人はスポーツ好きな国民が多いことからも、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに合わせて多くのアメリカ人の訪問が期待されています。
アメリカ人の嗜好性(体験・食・文化など)
アメリカ人の観光目的として圧倒的に多いのは、「日本食を食べること」です。他の国でも人気が高い「自然・景観地観光」が2位に続きますが、3位に「日本の歴史・伝統文化体験」が挙がっていることも注目すべき点でしょう(1位:日本食86.9%、2位:自然・景観地観光63.3%、3位:日本の歴史・伝統文化体験59.9%)。アメリカでは、世界最先端の商品がアメリカ国内で購入できることから、ショッピングを楽しみにしているインバウンド客はそれほど多くないのが現状です。その一方で、宿泊ホテルや食事代に多くのお金をかけ、滞在を充実したものにしようとする特徴が見られます。
アメリカの食といえば、ハンバーガーやホットドッグなどが思い浮かびますが、アメリカ人が日本で食べたい料理の代表は、お寿司やラーメン。日本のおいしい料理を食べるためには、多少の出費は仕方がないと考えるのがアメリカ人です。高級旅館やホテルに宿泊し、日本料理を楽しみます。そのため、日本の景観と温泉を同時に楽しめ、おいしい料理を楽しめる箱根などの温泉地にアメリカからの観光客が殺到しているのです。
インバウンド拡大に向けて特筆すべき点
アメリカ人の中には日本が好きで何度も訪問しているリピーターもいますが、多くのアメリカ人は「初めての日本を訪れる観光客」がほとんどです。そのため、基本的には観光客に人気のエリアや、ゴールデンルートといわれる日本での人気観光地を巡るプランが人気でした。
東京・千葉・京都・大阪・神奈川の5エリアが特に人気で、それ以外のエリアを訪問するアメリカ人観光客は、まだ多くありません。
イギリス
ヨーロッパからの旅行者の中では、イギリス人観光客が訪日外国人旅行消費額第10位にランクインしています。
旅行好きな国民が多いことで知られるイギリスですが、日本とイギリスの「距離」の問題もあり、イギリスからのインバウンド客はそこまで多い傾向はありませんでした。また、日本への訪問も初めての人が多く、データの上ではアメリカとよく似た特徴を示しています。しかし、貴重な訪問であるがために、「お金を贅沢に使って楽しもう」というイギリス人が多く、日本インバウンド市場への影響力は非常に大きなものがあります。
イギリス人の嗜好性(体験・食・文化など)
イギリス人の日本の楽しみ方は、上記で紹介したアメリカと非常によく似ています。イギリス人にとって、この1回の旅行が最初で最後の日本旅行となる人も多いため、日本の主要観光地や、人気のある食べ物などを求める傾向があります。
イギリスではパブの文化が強いため、イギリスのパブが日本ではどのように広まっているのかに興味を持ち、食事の後にパブを訪れたり、店員や客と気軽に話せるスポットを探し歩く傾向があります。また、イギリスは芸術と文学が非常に栄えた国であることから、日本の美術館や博物館などに興味を持つ人々が多いことも特徴として挙げられます。
インバウンド拡大に向けて特筆すべき点
2~3週間の長期滞在をする人も多く、事前に調べ計画した観光地の他に、日本滞在中に行きたいスポットを調べて行動に加える人も多くいます。インターネット上での口コミサイトの他、書店で購入した旅行マガジンを参考にする人もいます。イギリスの言語は英語であることから、アメリカからのインバウンド客と類似した特徴を持っていることがわかっており、同様のマーケティング手法を活用できると考えられます。
しかし、昨今ヨーロッパでは、2018年5月25日「GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)」が施行され、個人データの保護に関するルールが非常に厳しくなりました。イギリスをターゲットにする場合には、多言語サイト制作に取り組む前にGDPRについてもしっかりと理解しておく必要があるでしょう。
弊社ブログでも「GDPRの気をつけるべきポイント」として、GDPRついてまとめています。
さいごに
本記事では、日本のインバウンドに大きな影響を与えている複数の国に焦点を絞り、インバウンド客の傾向や、国ごとの嗜好性の違いについて紹介しました。上記の内容を見ただけでも、国ごとに大きな特徴の違いがあることを理解いただけたかと思います。この違いをきちんと理解し、ターゲットに合わせたマーケティングを行うことで、インバウンド客の獲得に大きく貢献してくれるでしょう。
新型コロナウィルスにより壊滅的なダメージが生じたインバウンド業界ですが、世界各国ではウィズコロナ時代へ突入すべく、それぞれの出口戦略を模索し始めています。来たるべきアフターコロナ時代のインバウンド需要を取りこぼさないためにも、今から多言語デジタルマーケティングを戦略的に準備していきましょう。
吉田 真帆 マーケティング部 プランナー
コンテンツ・SNS・メールマーケティングを統括しています。 オーストラリア永住権を取得したにも関わらず、思いもよらず日本に帰国。日本9年を経て、現在はシンガポールからフルリモート中。